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頚・腰部捻挫の徹底研究


 胸郭出口症候群

さて、耳慣れない症例です。 胸郭とは12個の胸椎、左右12対の肋骨、肋骨と前側で連結する
胸骨によって形成されている骨格の構造です。

モーレテスト
鎖骨上窩部の斜角筋上部を検者の母指にて圧迫すると、局所の疼痛と末梢への放散痛を訴える。
ライトテスト
両側の橈骨動脈の脈拍を触知しつつ両上肢を外旋・外転させると、患側の脈拍が減弱する。
アドゾンテスト
患者に坐位をとらせ、両橈骨動脈を触知しながあら、疼痛側に頭部を回旋させ、顎を持ち上げて深呼吸をさせると、患側の脈拍が消失する。

上肢の付け根から胸郭の最上の部分を胸郭の出口と呼びます。
そしてこの部分は上肢に流れる動静脈や上肢の運動や知覚を担当する
腕神経叢(左右にそれぞれ5本ずつあります)の通り道となっているのです。
胸郭出口部にはこれらの他に、
骨では鎖骨、第一肋骨、肉では前・中・後斜角筋、鎖骨下筋、小胸筋が存在しています。

胸郭出口部において、上肢に行く主要な神経・血管(腕神経叢や鎖骨下動・静脈)が圧迫を受けたり
牽引された結果 、肩〜上肢の神経障害もしくは血行障害を原因とする様々な症状を
「胸郭出口症候群」と説明しています。

症状としては、頭痛、肩凝りに加えて上肢の痛み、痺れ、倦怠感、
血行障害として皮膚蒼白、冷感、浮腫、自律神経症状として顔面 の発汗異常、嘔気等と様々です。
これらの症状が上肢の挙上運動や持続的な運動で増強してくるのが本症例の特徴です。
ちょっと古いですがキーパンチャー、電話交換手、流れ作業、美容師、
理容師等上肢に負担のかかる人の職業病として有名になったこともあります。
20〜30才代の女性に多い症例で、男女比は1:3です。15才前と40才以降にはあまり例がありません。
「鶴首、なで肩、柳腰」は日本美人を称える誉め言葉でしたが、
この「なで肩」の女性に本症例が多いのです。男性は筋肉質に多いとされています。

交通事故との因果関係です。 胸郭出口部に存在する斜角筋・鎖骨下筋・小胸筋が事故受傷により
断裂損傷を受ければ、血腫や瘢痕が形成され結果 として
血管神経を圧迫することは容易に考えられます。
筋断裂は断裂局所の疼痛、腫脹、皮下出血、圧痛を示しますので比較的容易にその判断が出来ます。

しかしこれらの筋肉が断裂を起こすのは、
相当大きな衝撃が頚部に加えられたときに限ってと考えるべきです。
通常の追突事故では先ず考えられません。
やはり、なで肩で元々体格的に素因のあった被害者が
受傷を契機にこの症状を訴えるのが一般的と判断せざるを得ません。

本症例の診断基準は
(1) 頚部、肩、腕に神経や血管の圧迫症状が存在し、愁訴が比較的長期間持続または反復すること。
(2) アドソン・ライト・モーレの各テストのいずれかが陽性で、テスト時に愁訴の再現又は増悪を見ること。
(3) 頚椎疾患、抹消神経疾患を除外できること。
(4) Roosテストが陽性であること。
(肩90°外転位、肘90°屈曲位で手指の屈伸運動が3分以上持続出来ない状況)
となっております。

治療は保存的療法が中心ですが、本症例に特徴的な上肢の症状を緩和する目的で
体格・体質改善が指導されます。
長時間のうつむき姿勢での仕事や、重いものの持ち運び等は禁止され、
筋力の柔軟性、増強を目的とした運動療法、例えばウエイトトレーニングや水泳などが推奨されます。

薬物療法としては筋弛緩剤、循環改善剤、神経機能改善剤、消炎鎮痛剤、
精神安定剤の投与が行われます。圧迫型については、斜角筋切除術や第1肋骨切除術が行われます。
牽引・緊張型では手術の適用はありません。

保存的療法では治療期間が長期化する特徴があります。
なで肩を特徴とする20〜30代の女性で、事故後上記疾患でお悩みの被害者の方は、
元々体格に素因があると言うことを理解しておく必要があります。
多少治療が長期化してもあまり悲観的にならず、
アスレチッククラブでストレッチや水泳の運動を前向きに行ってください。

後遺障害等級獲得のためには、先の4つの検査の他に、
病巣部病変部を描出する検査として各肢位での血管造影、腕神経叢造影検査を受けます。
後遺障害等級は、手術を受けられない場合、14級10号、12級12号の選択となります。


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