いえいえ、大嘘は稀ですが、こざかしい嘘は日常的です。
「交差点で一旦停止をしました。
それでは確認出来ないので、少し前に出て左右を確認したのです。
何も走ってなかったので安心して交差点に入った途端、
暴走してきた相手車の衝突を受けたのです。
ですから、私に過失はありません!」
「オバハンの車に当たったのは、ロケットか?」

もっと複雑で面白い話しです。
京都の名の通った大学生、昼日中から、彼女とホテルで楽しんだ後、
免停中ですが、車を運転して駐車場を出ました。
さんざん頑張ったものですから、注意力はやや散漫です。
ホテルを出た途端、折から直進中の車と出合い頭衝突です。
衝突した車は、何とロールスロイスで、山口クラブのイカツイお兄さんが運転しておられます。
真っ青になった大学生は、ロールスロイスに走り寄り、頭を低くして囁きました。
「この車は、僕のですが、実は免停中で保険が出ません。
助手席の彼女も運転免許を持っています。
お願いですから、彼女が運転していたことにして頂けませんか?」
山口クラブのイカツイお兄さんも、親分のロールスロイスですから、
保険がおりないと困ります。
話し合いは成立し、そのシナリオで警察に届け出たのです。
家に帰った大学生は、ことの顛末を、正直に父親に話しました。
話を聞いた父親は、馬鹿息子をぶん殴ったのですが、
「もう一度警察に出向いて、全てを説明して謝ってこい!」
極めて常識的な対応を指示しました。
そして、「このままでは、家が取られる?」 とつぶやいたそうです。
大学生は、その足で警察に向かい、全てを包み隠さず告白しました。
その後、私は保険調査員として大学生と面談、
事故発生状況の確認を行いました。
四条川端を下がったところのホテルの駐車場から通りに発進し、
川端通りを南進中の相手車と出合い頭衝突をした?
何でもない事故状況ですが、「何てホテルですか?」
の質問に、「というわけで」 の回答です。
話しは再び元に戻ります。 
これを 2 回続けて、私はキレました。
「さっきから、話しが前に進まんやないの? 何遍、というわけでを繰り返したら気が済むの?」
「ですから、というわけで、がホテルの名前なんですよ!」
「何、それ?」
私は、大学生がホテルのラウンジでコーヒーを飲んでいた程度を想像していましたので、
まさかホテルの名前が、「というわけで」
しかもラブホテルとは思いもつかなかったのです。
実は、保険屋さんに対する事故報告は、正確になされており、
嘘をついたのではありません。
しかし、学生は、この顛末をイカツイお兄さんには説明していなかったのです。
警察は、この山口クラブのお兄さんを少し、からかい始めたのです。
「男が運転していた? そんな目撃者の話があるけど、どうやった?」 
「いいえ、女の人が運転してましたよ!」
何せ、男同士の堅い約束をしているのですから、山口クラブさんは、言い切ったのです。
1 週間して、山口クラブのお兄さんに逮捕状が出ました。
罪状は、「犯人蔵匿罪」 です。
叩けば埃の出る身体ですが、何故、今頃切符がまわったのか?
差し当たっては思い浮かびません。
参考までに、切符がまわった? とは、逮捕状が出ているとの業界用語です。
何となく気になって、大学生に連絡を入れました。
事情を知ったお兄さんは、激怒し明石の蛸状態になりました。
俄な緊張状態で、保険調査員が出掛ける局面ではありません。
しかし、この場合、保険屋さんも火中の栗を決して拾いたくはありません。
弁護士と私がセットになって、学生親子と共に、先ず警察に出向きました。
丁重に詫びて、逮捕状の撤回をお願いしたのです。
この後に、弁護士と私は学生だけを連れて、山口クラブ事務所に出向いたのです。
何やかんやで、少し多目に払って物損の示談は、無事、完了しました。
クラブのお兄さんは、出口で見送る際に、
「宮尾はん、助手席の女子大生な、未だ髪が濡れとったんやで、
学生言うても最近は食えんのが多いわ?」
妙になまめかしいお話を聞きました。 |