頭蓋内では、脳が、外側から硬膜、くも膜、軟膜の髄膜に包まれた状態で存在しています。
硬膜は頭蓋骨の内側にピッタリと張りついており、厚手のラバー状でシッカリとした膜ですが、くも膜はピンセットでつまむと破れてしまうほどの薄く弱い膜で、最後の軟膜は、脳の表面そのものであって、この膜を剥がすことはできません。
くも膜の内側では、無色透明の脳脊髄液で満たされており、その中で、脳は浮かんでいるのです。

急性硬膜下血腫とは、頭蓋骨の内側で脳を包んでいる硬膜と、脳の間に出血がたまって血腫になったもので、脳挫傷による出血が短時間で硬膜下に溜まり、硬膜下血腫になります。

脳挫傷の局所の対角線上に急性硬膜下血腫が認められることもあり、対側損傷と呼ばれています。
金属のボウルに水を張り、豆腐を浮かべます。
包丁の峯でボウルの右側を叩くと、衝撃波により、豆腐の左端が崩れます。
これと同じ状況が脳内に発生すると、対角線上に急性硬膜下血腫を発症します。

血腫による圧迫で、頭蓋骨の内圧が高まり、激しい頭痛、嘔吐、意識障害などが認められ、血腫による圧迫が脳ヘルニアに進行すると、脳幹損傷、呼吸麻痺により死に至ります。

血腫は頭部CTで白く映り、血腫の形状は、脳の表面に広がるため、三日月型になります。

日本のガイドラインでは、血腫の厚さが1cm以上であれば、緊急に開頭血腫除去術が行われます。
血腫を完全に除去し、出血源を確認して止血するためには、全身麻酔下に開頭して血腫除去術を行うのが確実なのですが、それでは間に合わないとき、現場で、穿頭や小開頭が行われることもあり、このシーンは、TVのコードブルーでも拝見しています。

また、全身麻酔下の開頭手術では、脳浮腫による脳圧亢進を圧排する必要から、開頭した骨片を元の位置に戻さず、皮下組織と皮膚のみで閉頭し1~2カ月後、状態が落ち着いた時点で、保存しておいた骨片を戻して整復するという方法がとられることもあり、これまでに、複数例を経験しています。

※圧排

あっぱいと呼び、除外、排除を意味し、治療や手術などでは、しばしば登場する用語ですが、職業柄でしょうか、私は知らない医学用語にワクワクしています。

血腫が少量では、頭蓋内圧亢進に対する脳圧降下薬、グリセオールやマンニトールの点滴注射による薬物療法が選択されています。
予後は、一般的に、入院時の意識障害のレベルに比例し、昏睡状態の重症急性硬膜下血腫の死亡率は現在でも70%、社会復帰は15%と報告されています。

1985-2-5、浪速のロッキーと呼ばれた赤井英和は、大和田正春との試合で、第7ラウンドでKOされ、リング内で意識不明となり、大阪市内の富永病院に救急搬送、急性硬膜下血腫、脳挫傷と診断され、開頭手術が行われました。奇跡的な回復でしたが、医師からはボクサー引退の勧告を受け、現役を退き、その後、芸能界入りしています。

急性硬膜下血腫による後遺障害のキモ?

傷病名が急性硬膜下血腫で、開頭血腫除去術が実施されたもの、保存的な治療であっても、受傷直後から意識障害が長く続いたものでは、ほぼ確実に、高次脳機能障害を残します。