高次脳5級2号

54歳・女性が自転車で交差点を横断中、対向右折のワゴン車に跳ね飛ばされ、高次脳機能障害の障害を負ったのですが、被害者は、事故から1年2カ月後に自殺しています。

損保の反論

加害者側の損保は、事故と自殺の因果関係は認められないとして、被害者死亡による遺族に対する保険金の支払いを拒否していました。

弁護士の立証

本件を担当した弁護士は、診断書、診療報酬明細書、カルテや看護記録を収集し、家族からは、被害者の生前の状態を細かく聴き取り、高次脳の専門医に、
①被害者の生前の状態から高次脳機能障害であると認定できるか?
②認定できるとして、なん級のレベルなのか?
上記の2つの分析を求め、後に、意見書として回収しました。

裁判では、
①まず高次脳機能障害に自殺願望があることを文献上も明らかにするとともに、
②先の意見書から、被害者の高次脳が5級2号であったと主張しました。

⇒結果、裁判所は高次脳と自殺との因果関係を認め、80%、5900万円を支払えと判決しました。

交通事故の被害者がその後自殺したときは、加害者側の損保が、事故と死亡との因果関係を認めることはほとんどなく、仮に、これを認めたとしても、せいぜい30%程度がこれまでの上限でした。
今回、因果関係を80%も認めたのは、画期的な判決であり、当時、ネットでも注目されました。

最近では、医学論文において、事故で高次脳を負った被害者に、自殺願望が強く現れることが、明らかにされています。
今後、弁護士は、損保の主張に屈することなく、事故と自殺の因果関係について、丁寧な立証を行って、主張しなければなりません。

NPOジコイチのコメント

私の注目するところは、自殺後に、家族から被害者の状態を聴き取り、書証を収集して、専門医から意見書の回収を行って、裁判所に5級2号を認定させた、本件弁護士の剛腕です。
とてもじゃありませんが、並みの弁護士に、できることではありません。

もう1つの疑問です。
交通事故では、本件事故と因果関係の認められない疾病などで、被害者が死亡したときは、生きているものとして損害賠償請求ができることになっています。
嘘? 決してフェイクではなく、なんども経験しています。

「事故と関係なく死んでしまえば、なにもかも終わりにされる?」 遺族は、こんなトラウマにおののいているのですが、因果関係のない死亡では、通常の後遺障害事案として損害の積算が行われます。
ただし、高次脳では、将来の介護料を請求することはできません。
将来もなにも、被害者が亡くなっているからです。
このことは、ホームページ、「治療中の死亡110番」で詳細を掲示しています。
さて、自殺もそれに該当するのか、調べても記載がなく、自信がありませんが、仮に死亡として扱うのであれば、因果関係が否定された方が、高額賠償につながることがあるのです。

損害の費目 事故との因果関係が× 事故との因果関係が○
慰謝料 149万円 149万円
後遺障害慰謝料 1400万円 死亡慰謝料 2400万円
休業損害 372万7000円 372万7000円
逸失利益 2765万8000円 1936万1000円
葬儀料 0円 150万円
小計 4687万5000円 5007万8000円
認定額 4687万5000円 80% 4006万2400円

議論を単純化して比較するため、以下の前提条件で積算しています。
入院2カ月・通院8カ月で1年後に症状固定、1年後に自殺、
休業損害と逸失利益の基礎収入は、女性の全年齢平均により372万7100円
就労可能年数13年・ライプニッツ係数9.3936、死亡による生活費の控除率30%

ポイントは、逸失利益です。

生活費の控除率
家族状況 地方裁判所基準 任意保険基準
一家の支柱で被扶養者1人では 40% 40%
一家の支柱で被扶養者2人以上では 30% 35%
一家の支柱で被扶養者が3人以上では、 30% 30%
女性(独身・主婦・幼児を含む) 30% 被扶養者が0 50%
男性(独身・幼児を含む) 50% 被扶養者が0 50%

後遺障害事案では、生活費の控除はなされませんが、死亡事案では、30~50%の生活費率が、逸失利益から控除されます。