長女、24歳ですが、大学を卒業後、銀行に勤務していました。
ところが、母親が末期の乳ガンと診断され、自宅療養を切望しました。
長女は銀行を退社し、実家に戻って母親の介護を続けました。

母親は、2年後に亡くなったのですが、その直後、自転車で青信号交差点を横断中に対向右折車の衝突を受け、脳挫傷、びまん性軸索損傷の傷病名で2級1号の後遺障害が認定されました。

本件の解決ですが、長女の逸失利益の基礎となる収入、介護料などについてお教えください?

A 基礎収入ですが、損保は、事故当時、無職であることを理由に、せいぜい18歳の年齢別・男女別平均給与額、16万9600円×12カ月=203万5200円と主張してくると予想しています。

私は、H11-10に行われた東京・名古屋・大阪地裁の共同提言※に基づき、H27年賃金センサス・女性・全年齢平均賃金の372万7100円を基礎年収として請求します。

銀行を休職し母親の介護を続けていたときは、女性の学歴別平均賃金454万6500円で請求します。

※交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言
1)交通事故による逸失利益の算定において、原則として、幼児、生徒、学生、専業主婦および比較的若年の被害者で生涯を通じて全年齢平均賃金または学歴平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められるときは、基礎収入を全年齢平均賃金または学歴別平均賃金によることとし、それ以外の者については、事故前の実収入額によることとする。

2)交通事故による逸失利益の算定における中間利息の控除方法については、特段の事情のない限り、年5%の割合によるライプニッツ方式を採用する。

3)上記の運用は、特段の事情のない限り、交通事故の発生時点や提訴時点の前後を問わず、平成12年1月1日以降に口頭弁論を終結した事件ついて、同日から実施する。

平成11年11月22日

NPOジコイチのコメント

訴訟では、生涯を通じて全年齢平均賃金または学歴平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が問題となり、協議することになります。
本件の被害者は、
①症状固定時24歳で同提言に該当すること、
②母親の乳ガン末期療養のため原告が勤務先を退職して介護や家事をせざるをえなかったことなど、
やむを得ない事情で無職であったことを説明するとともに、
母親の介護を終了した原告が、なにを目指していたのか?
それを実現するために、どのような学習をしていたのか?
これらについて、家族から聴き取り、細かく主張して、請求額の認定を求めていくことになります。

介護料については、損保は、決まって、高次脳2級1号=随時介護=将来介護料日額2000円、つまり、ときどき見守り程度の介護をしていれば、事が足りるとの定式を当てはめてきます。

これらに対しては、被害者の障害状況や介護の負担の程度に応じて、注意、看視、声かけ等の常時介護が必要かどうか、実際に検証していくことが必要であり、重要です。

2級1号であっても、常時介護の必要性を考慮して、日額8,000円を認めた判例も存在しています。

高次脳機能障害者全てに該当する課題ですが、介護料の請求では、等級に関係なく、介護の実態と問題点を細かく立証していかなければなりません。

高次脳2級1号

事故当時、無職で家事手伝いの28歳女性が、自転車で下り坂の青信号交差点を横断中、対向右折の自動車の衝突を受け、脳挫傷による高次脳で2級が認定されました。
この女性には、物忘れや自発性の低下のほか、家族に暴力を振るう、自殺未遂をするなど、人格障害による他害行為や、自殺願望、社会的迷惑行為などの異常行動が著しく現れ、投薬で抑制していたものの、常に看視=監視と声掛けを欠かすことができない状態で、家庭は崩壊寸前の状態でした。

本件の問題点
①被害者は大学を卒業した後、一度は公務員の職に就いていたが、その後退職し、自己実現のためにアルバイトや契約社員として働きながら勉強を重ねていたのですが、事故当時は、病気療養中の家族にかわって家事をする必要があったため、無職でした。
②こうした状況につき、一審の京都地裁判決は逸失利益の基礎収入を女性平均賃金の70%、4100万円、将来の介護料については、薬物で症状を抑制し、施設入所前提の日額5,000円、3400万円という認定であり、担当弁護士は、逸失利益と将来の介護料について地裁判決の事実認定を是正させるべく控訴しています。

弁護士の立証

①将来介護料について、弁護士は、投薬により他害行為・自害行為は収まっているものの、薬で本人の意志を抑制した状態で施設や病院に入所させることは、自己決定権を抑制し、憲法上の幸福追求権や居住・移転の自由を侵害するものだと主張しました。

②基礎収入については、若年者の逸失利益について裁判所の共同提言がなされており、本件被害者は症状固定時29歳で同提言に該当すること、さらに自己実現のためにアルバイトなどをしながら勉強する時間を割いていたこと、家族が病気療養のため原告が家事をせざるをえなかったことなど、やむを得ない事情で無職であったことを細かくこまかく主張しています。

⇒③その結果、
高裁は 自宅介護を前提に介護日額として8000円、5470万円、 基礎収入については、女子平均賃金年額350万円を適用し、5900万円、 総損害額1億4540万円、5%の過失相殺と既払いを控除して1億2,510万円、近親者慰謝料として510万円を支払えと判決しました。
結果として、損害賠償額は一審判決の1.5倍にアップし、さらに、約6年分、30%の延滞利息が別途追加されたのです。

NPOジコイチのコメント

損保が画一的に想定している、高次脳2級なら随時介護、見守り介護なら日額2000円で十分?
このような定式に拘ることなく、被害者の障害状況や介護の負担の程度に応じて、注意、看視、声掛けなどの常時介護が必要かどうか、常に検討しなければなりません。
本件は2級でありながら、日額8,000円の高額判決を獲得しています。

一審の京都地裁は、将来の介護料について、薬物で症状を抑制し、施設入所前提の日額5,000円、としていますが、担当弁護士は、大阪高裁に控訴し、薬で本人の意志を抑制し、施設や病院に入所させることは、自己決定権を抑制し、憲法上の幸福追求権や居住・移転の自由を侵害するものだと主張して、自宅介護を前提に、介護料を請求しています。
これこそが、勝訴に導く弁護士の創造力と構成力です。