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(1)ブラウン・セカール症候群=脊髄半側症候群
(2)前脊髄動脈症候群
(3)脊髄前角障害=前根障害
(4)脊髄の後角障害=後根障害
(5)バーナー症候群
(6)脊髄空洞症
(7)頚椎症性脊髄症
(8)腰部脊柱管狭窄症
(9)馬尾症候群
(10)後縦靱帯骨化症 OPLL
(11)頚椎前方除圧固定術と嚥下・開口・嗄声障害
(12)横隔膜ペーシング


(1)ブラウン・セカール症候群=脊髄半側症候群

脊髄の横断面
脊髄の横断面

温痛覚の知覚神経は脊髄に入り、そのまま同じレベルの脊髄を反対側まで到達し、そして脳まで上行し、温痛覚を感じるのですが、深部感覚の知覚神経は脊髄に入ってすぐ上行し、脳まで到達し、深部感覚を感じています。そして、運動神経は脳で命令が発せられた後、走行が延髄で反対側に移動し、そこから脊髄を下行して四肢に到達し、運動を引き起こします。

では、脊髄の半側が障害されるとどうなるでしょうか?

脊髄の半側と言っても、脊髄全体の半分ではなく、あるレベルにおける脊髄の半分だけの障害です。
例えば、上位胸椎レベルの脊髄の右側だけが障害されると、右側の下肢の深部知覚と左側の下肢の温痛覚が上行できなくなり、左脳からの右下肢を動かすための命令は、下行できなくなります。
このとき、右の下肢の温痛覚は通常通り上行できますので、正常に感じます。

脊髄の右半分 脊髄の左半分
左側の温度覚、痛覚 右側の温度覚、痛覚
右側の深部覚、触圧覚 左側の深部覚、触圧覚
右側の運動 左側の運動

脊髄の片側だけが障害され、片側の下肢の運動麻痺と反対側の下肢の温度覚・痛覚、触覚の低下が組み合わされて起こるものをブラウン・セカール症候群と読んでいます。
いずれの場合も、損なわれた脊髄の部位に強い痛みを伴います。

医師国家試験の学習では、ブラウン・セガール症候群のことを、「ブラのあつくて痛いのには反対だ?」こんな語呂合わせで覚えています。
ブラウン・セカールは、温痛覚のみ反対側で、同側では、触・圧・運動覚などの障害を受けるからです。

ブラウン・セガール症候群における後遺障害のキモ?

1)L2以上の脊髄の半側のみの損傷で、1下肢の中程度の単麻痺が生じたために、杖または硬性装具なしには階段を昇ることができないとともに、脊髄の損傷部位以下の感覚障害が認められるものは、7級4号が認定されます。

2)L2以上で脊髄の半側のみ損傷を受けたことにより、1下肢の軽度の単麻痺が生じたために日常生活は独歩であるが、不安定で転倒しやすく、速度も遅いとともに、脊髄の損傷部位以下の感覚障害が認められるものは、9級10号が認定されます。

障害を受けたレベルごとに、等級を精査していくことになります。


(2)前脊髄動脈症候群

脊髄の前側部分に酸素や栄養を供給する前脊髄動脈の血流が低下し、麻痺などの症状が起こる病気のことで、特に血管が詰まって虚血を起こしている状況を総称して脊髄梗塞と呼ばれることもあります。 主な原因としては、動脈硬化、大動脈解離や大動脈の手術の合併症が挙げられており、外傷性も否定できないのですが、私は、1例も経験したことがありません。

運動や感覚の麻痺といった症状が急速に進行し、手足の運動麻痺、温痛覚の障害、膀胱直腸障害を訴えます。症状は両側に出現することもありますが、通常は左右差があり、梗塞を起こした脊髄の部位によって、症状の広がりは変わります。上位頚髄で障害が起こると、呼吸をコントロールする横隔神経の働きが弱まり、呼吸障害も引き起こします。

前脊髄動脈症候群と確定診断されたときは、梗塞を起こしている血管部分を、顕微鏡で確認しながら、慎重に除去する手術が実施されています。
対症療法としては、副腎皮質ステロイド剤の投与、高浸透圧溶液の投与などがされ、脊髄の浮腫を取るために、抗浮腫剤も投与されることがあります。
排尿に関する問題の対策としては、尿道カテーテルを使用します。

外傷性のときは、後遺障害は、残した脊髄症状により、等級が判断されることになります。


(3)脊髄前角障害=前根障害

先に、脊髄の中心部が損傷する中心性頚髄損傷を説明していますが、本症例は、脊髄の前角部あるいは前根部が損傷したものです。
いずれにしても、脊髄損傷のカテゴリーであり、ムチウチではありません。

脊髄の横断面
青○印が前角部

脊髄の中心部には、蝶のような形をした灰白質があります。
1つの脊髄末梢神経では、第1脊髄神経を除き、2つの神経根が存在しています。
①前根=運動神経根
脳や脊髄からの信号を、運動神経根を経由して筋肉に伝達しています。

②後根=感覚神経根
灰白質の後方にあって、触覚、姿勢、痛み、温度などの感覚情報の信号を体から脊髄に伝えます。

※信号の経路?
信号は、脳に行くものと、脳から来るものがあり、それぞれ別の経路を通ります。

①外側脊髄視床路 感覚神経根で受けた痛みや温度の信号が、この経路を通って脳に伝わります。
②脊髄後索 感覚神経根で受けた腕や脚の位置信号が、この経路を通って脳に伝わります。
③皮質脊髄路 筋肉を動かす信号が、この経路を通って脳から運動神経根に伝わり、運動神経根を通じて筋肉に伝わります。

交通事故では、正面衝突など、前方向からの大きな衝撃により発症するもので、少数例の経験です。
症状は、頚椎症性脊髄症と同じで、圧迫部位より下の手・足の症状、箸が持ちにくい、字が書きにくい、ボタンがはめにくいなど、手指の巧緻運動が困難で、著明な筋萎縮と筋力低下、弛緩性運動麻痺が認められ、片側性が多いのですが、両側性も報告されています。

頚椎症性脊髄症では、下肢が突っ張って歩きにくい、階段を降りるとき足がガクガクする、上肢の筋萎縮、脱力、上下肢および体幹の痺れ、症状がさらに進行すると膀胱直腸障害も出現しますが、前角障害、前根障害では、下肢に症状が認められることと、知覚障害は、ほとんどありません。

脊髄前角障害

C5/6では、三角筋、上腕二頭筋、棘上筋、棘下筋、腕撓骨筋に筋萎縮が認められます。
回外筋の筋力低下は認められますが、回内筋の筋力は保たれていることが多いのです。

C7では、上腕三頭筋の筋萎縮を認める。
翼状肩甲を合併することが多いと報告されています。
回内筋の筋力低下を合併することが多いとも報告されています。

※翼状肩甲とは?

脊髄前角障害

上腕を挙上する際に、肩甲骨の内側縁が浮き上がります。これが、天使の羽根のように見えるので、翼状肩甲骨と呼ばれています。
正常肩関節では、上腕を90°以上挙上するときには、肩関節だけでなく、肩甲骨の内側で前鋸筋や僧帽筋の働きで、肩甲骨が胸郭の外側を滑るように前方に移動し、下端が上方に回転しています。
前鋸筋の麻痺では、肩甲骨の内側縁が浮上し、翼状肩甲骨となり、上腕の屈曲ができなくなります。

C8では、小手筋、第1背側骨間筋の筋萎縮が見られ、総指伸筋の筋力低下で垂れ指となります。
手指背屈位でMP関節の背屈ができず、小指外転筋の筋萎縮、尺側手根伸筋の筋力低下が認められます。立証ですが、病変の広がりについては、針筋電図による脱神経所見の検索が有用です。
頚椎MRI、ミエログラフィー、NCV、MEPなど電気生理学検査も実施されています。

前角障害と前根障害の2つがありますが、前角障害では、神経の回復が不可逆性になる可能性が高く、早期オペの適応となります。
前角障害、前根障害は、頚椎症性筋萎縮症と診断されることもあります。

前角障害、前根障害における後遺障害のキモ?

1)東京の交通事故無料相談会ですが、傷病名は、右肩腱板損傷ですが、持参されたMRIでは、腱板損傷を確認することができません。
このままでは、後遺障害は非該当が予想されるところから、精査受診対応で専門医を受診しました。
結果、頚椎前角障害が診断され、腱板損傷は否定されました。

前医は、C5/6前角障害により、三角筋、上腕二頭筋、棘上筋、棘下筋、腕撓骨筋に著明な筋萎縮が認められたのですが、この筋萎縮を、右肩腱板損傷と診断したものと思われます。

2)頚椎の固定術について?
痛みや不快感を訴える症例では、まず、保存的治療が選択されます。
それでも改善が得られないときは、オペの適応となりますが、頻度は少ないものです。
先の痛みに加え、筋力低下や筋萎縮の神経脱落症状を示している症例では、躊躇なくオペが選択されています。

頚椎前角障害のオペは、前方固定術もしくは後方椎間孔拡大術、椎弓形成術が行われています。
予後については、痛みに比べて痺れが消退しにくく、C5/6、近位型に比べてC7/8遠位型の麻痺がなかなか改善しにくいと報告されています。

3)頚椎前角障害と診断されたときは、オペが優先されます。
症状固定は、オペ後4カ月を経過した段階で決断することになります。
針筋電図で、棘上筋から小指外転筋に至るまでの脱神経所見を検証します。
日常生活の支障は、脊髄症状判定用の用紙に、主治医の記載をお願いしなければなりません。

その後、先の被害者は入院となり、頚椎前方固定術が実施されました。
脊柱の変形で11級7号、三角筋、上腕二頭筋、棘上筋の筋萎縮による右肩関節の機能障害で12級6号、併合10級が認定されました。


(4)脊髄の後角障害=後根障害

脊髄の横断面
青○印が後角部

先に、頚髄前角部の損傷である前角障害、前根部の損傷である前根障害を説明していますが、本症例は、頚髄の後部に位置する後角部あるいは後根部が損傷したものです。
脊髄損傷のカテゴリーであり、ムチウチではありません。

後角部には、感覚性の神経細胞が多数集合しており、触覚、姿勢、痛み、温度などの感覚情報の信号を体から脊髄に伝えています。
後根障害では、全ての感覚線維が障害されるが、温・痛覚障害を残すものの、触覚は侵されることが少ないと報告されています。

後根は、脊髄神経の内、感覚神経が脊髄に入り込む神経根であり、体性感覚または内臓感覚の情報がここを通って中枢にもたらされています。
後根が障害されると、体の一部分の体性感覚が麻痺し、神経根痛を発症します。

※体性感覚?
目・耳・鼻・舌などの感覚器以外で感知する感覚のことで、触覚、痛覚などの皮膚感覚、筋の収縮状態を感知する深部感覚、内臓の痛覚などを体性感覚と呼んでいます。

交通事故における受傷機転や症状、治療法については、経験則がなく解説ができません。
後遺障害の立証は、前角障害、前根障害に同じです。


(5)バーナー症候群

アメフト、ラグビー、レスリングなどのコンタクトスポーツで相手と接触した際に、首が強く横方向に曲げられる、伸ばされたりしたとき、首、肩~手に向かって電気が走る、焼け付くような痛み、しびれと脱力を訴えます。

バーナー症候群

バーナー症候群は、頚~肩に走行する神経の束=腕神経叢が一過性に引き伸ばされて起こる症状で、軸索損傷もしくは神経虚脱に相当するものと考えられています。
交通事故では、交差点における出合い頭衝突で、横方向から頚部に強い衝撃を受けたときに発症していますが、多数例ではありません。
一般的なムチウチに比較すれば、症状は片側の上肢の灼熱痛、タンスの角で肘をぶつけたときに起きる痺れがずっと継続している、箸を使用して食事できないなど、深刻で大袈裟なものです。

バーナーで炙られたような痛みから、バーナー症候群と呼ばれているのです。
しかし、これらの症状は、長くても3カ月前後で軽快、消失していきます。
バーナー症候群に限って言えば、後遺障害の対象ではありません。

バーナー症候群における後遺障害のキモ?

①これまでに、この傷病名については、10例ほどの経験があります。
コンタクトスポーツによる受傷では、頚椎の安静と症状が治まってから、再発予防のための頚肩部の筋力訓練のリハビリが実施されており、症状が緩解するまでは、スポーツを行うときは、肩パッドや装具を着用が指示されています。

2)交通事故では、大多数で頚椎捻挫と診断されます。
バーナー症候群の傷病名は、整形外科・開業医にとって、メジャーなものではありません。
症状を訴えても、基本、相手にはされません。
しかし、この記事を読破しておられる被害者は、慌てる必要はありません。
それであっても、頚椎捻挫で後遺障害の獲得を目指すのです。

そのためには、
ⅰ)リハビリ設備の整った整形外科・開業医で、真面目にリハビリ通院治療を続けます。
真面目とは、3日に1回、1カ月に10日以上のリハビリ通院を積み上げることです。
そして、決して整骨院、接骨院で施術を受けてはなりません。
施術は、治療実績として評価されておらず、施術を続ければ、後遺障害が認められないのです。

ⅱ)できるだけ早く、頚部のMRI撮影を受けておきます。
頚部捻挫では、末梢神経障害が後遺障害の対象であり、末梢神経は、XP、CTでは描出できません。

バーナー症候群

注目すべきは、頚椎、C5/6と6/7です。
左右いずれかの頚部、肩~上肢、手指にかけて重さ感、だるさ感、しびれの症状があれば、先のC5/6、6/7に末梢神経を圧迫している椎間板ヘルニア所見もしくは、末梢神経の通り道を狭めている骨棘形成などの画像所見が得られているはずです。
これらは、外傷性所見ではなく、誰にでも認められる年齢変性なのですが、自覚症状とMRI画像所見が一致したことになり、高い確率で14級9号が認定されているのです。
参考までに、末梢神経障害に対しては、リリカの内服で改善が得られています。

ⅲ)そして、受傷から6カ月を経過すれば、損保に治療の打ち切りを打診される前に、症状固定、後遺障害診断を選択するのです。6カ月間、真面目に治療を続けても、改善が得られない症状が、あと、1、2カ月の治療で治癒する? こんなおばかなことを考えるものではありません。
後遺障害等級を獲得して、弁護士による実利ある解決を求めるのです。

ⅳ)交通事故110番では、17年6月から0120-716-110で電話による相談を開始しています。
その中で、気になる情報があります。
損保が、整骨院、接骨院の施術について、受傷から3カ月間に限り、認めるというものです。
今のところ、全労済と、沖縄の大同火災が、このような態度を明らかにしています。
しかし、これでは、整骨院の施術を認めておいて、後遺障害となると、非該当にする騙し討ちです。
ともかく、整骨院で施術を受けると、後遺障害は否定されるのです。
よく、覚えておくことです。


(6)脊髄空洞症

バーナー症候群

脊髄の中心部に脳脊髄液がたまった空洞ができることにより、脊髄を内側から圧迫して、さまざまな神経症状を発症する病気です。発症に男女差はなく、あらゆる年齢層にみられます。

頚髄に発生することが多いため、上肢や手の痛みまたは感覚障害で始まることが多く、空洞が拡大すると手や腕の麻痺や筋萎縮、歩行障害、さらには排尿や排便の障害が出てきます。

上肢にみられる感覚障害には特徴があり、温痛覚=温度や痛みの感覚は障害されますが、触覚と振動覚・位置覚などの深部感覚は保たれる、このことを解離性感覚障害といいます。
そのため、腕を強くつままれたときに、触れられたという感覚はあるのに、痛みを感じない、あるいは火傷をしても熱さを感じないということが起こります。

空洞が延髄におよぶ延髄空洞症では、顔面の感覚障害や嚥下障害が起こります。
このため食事の際に飲み込みが悪くなり、飲み込んだ水分が誤って気管に入る誤嚥が発生します。

感覚障害などの症状に対しては、薬剤による対症療法を行います。

キアリ奇形

キアリ奇形に伴う脊髄空洞症では、大後頭孔減圧術と呼ばれる外科的手術を行います。
この手術は頭から頚部に移行する部分で脊髄周辺の空間を広げて、髄液の流れをよくするというもので、多くの例で、空洞が縮小して、症状も軽快します。
しかし、症状が進行してしまった後の手術は、有効でないことが多く、早期の手術が大切です。
空洞のできる詳しいメカニズムは、不明な部分が多いのですが、脊髄空洞症を原因により、以下の5つに分類されています。

①キアリ奇形に伴う脊髄空洞症

アーノルド・キアリ奇形は、小脳の下端が脊椎の方向に垂れ下がるように、めり込んでくる奇形です。
後頭部の奥にある小脳が生まれつき脊髄の方へ下に落ち込む小脳扁桃下垂がキアリ奇形の特徴であり、これはMRIで確認することができます。

キアリ奇形による脊髄空洞症であれば、残念ですが、交通事故受傷との因果関係は完全否定され、後遺障害等級の獲得は、スッパリとあきらめなければなりません。
症状としては、片手の痛みや温度に対する感覚が鈍くなり、やがて両手の力が入らなくなります。
症状の進行はゆっくりですが、治療せずに放置したときは、約半数の人は20年以内に下肢にも麻痺が進行し、車椅子が必要になると言われており、直ちに手術適用となります。

亀田京橋クリニック 脊髄空洞症外来
医師 阿部 俊昭 東京慈恵会医科大学脳神経外科名誉教授
東京都中央区京橋3丁目1番1号 東京スクエアガーデン4階
毎月第一木曜 14:00-16:30
電話予約センター 03-3527-9201で予約が必要です。

日本における脊髄空洞症の手術の第一人者は、阿部俊昭 慈恵医科大名誉教授です。
NPOジコイチからは、この5年間で複数の被害者が慈恵医科大で手術を受けて改善を得ています。

頭蓋から脊柱管に移行する部分を大後頭孔と呼びますが、この空間を拡げることによって、髄液の流れを良くする大後頭孔拡大術が選択されています。
これは、本来頭蓋内に収まっているはずの小脳の一部が大後頭孔を経て脊柱管内に下垂しているキアリ奇形により、脳脊髄液の交通が妨げられ空洞が形成されているケースで有効なオペです。
大多数は、術後1カ月ほどで空洞を縮小させることができ、症状も改善します。

脊髄空洞内に直接細いチューブを挿入し、空洞内にたまった水を他の場所に流すようにする手術は空洞短絡術 と言います。空洞の水をカテーテルで、くも膜下腔に流す方法が一般に行われています。
空洞から、腹腔部、胸腔部に流すこともあり、この手術は、比較的簡単で有効です。

②外傷後脊髄空洞症

損傷部の髄膜癒着に起因する脊髄の係留効果と髄液の環流障害が関与していると言われています。
キアリ奇形がMRI画像で否定されるケースでは、後遺障害獲得の可能性が出てくるのです。
症状の現れ方は、空洞の大きさや長さによって異なります。
私の経験則では、複数例で9級10号が認定されています。

名称  独立行政法人 労働者健康福祉機構 総合せき損センター
所在地 福岡県飯塚市伊岐須550-4
TEL   0948-24-7500
病院長 芝 啓一郎

芝院長は、平成19年「整形外科と災害外科56」で頚椎症性脊髄症による脊髄空洞症を発表、両前腕痛、四肢の痺れ、歩行障害を訴える85歳の男性について、脊髄圧迫による髄液環流障害に起因する脊髄空洞症と診断、空洞自体の処置は行わずにC3~7の頚椎椎弓形成術を行っています。
http://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai/56/4/623/_pdf/-char/ja/
MRI所見では、C4/5では後方より、C5/6では、前方からの圧迫が高度であることが確認でき、そしてC3/4/5の後方の脊髄に空洞症が認められます。
空洞自体の処置は行わずにC3~7の頚椎椎弓形成術を行った結果、空洞は消失しています。
この画像では、小脳扁桃下垂=キアリ奇形は認められません。

脊髄の圧迫による髄液環流障害をきたしたケースで、圧迫の原因は頚椎症性脊髄症=変形性頚椎症であり、除圧手術のみで空洞は消失、両前腕痛は軽快、痙性歩行も改善しています。
本件は交通事故ではありませんが、事故であるとするなら、11級7号、8級2号の選択となります。

5年間に17例の経験、しかも7例はキアリ奇形ですから、後遺障害を断念しています。

脊髄空洞症における後遺障害のキモ?

1)キアリ奇形に伴う脊髄空洞症であると診断されたときは、後遺障害を断念します。
交通事故をきっかけに、キアリ奇形が発見されたのであり、交通事故をきっかけにキアリ奇形が発症したのではありません。後遺症は諦めるのですが、放置しておくと車椅子状態も予想されます。
紹介の専門医を受診し、オペによる改善を目指すことになります。

2)キアリ奇形ではない、外傷後脊髄空洞症と診断されたときは、後遺障害の獲得を目指します。
事故後の経過で、空洞の大きさや長さが拡大しているときは、オペが選択されます。
専門医を受診し、オペを受けて改善を目指します。

空洞の大きさや長さが縮小しているときは、オペの選択はなく、保存療法による経過観察となります。
いずれであっても、脊髄空洞症はMRI画像で、発症している神経症状、片手の痛みや温度に対する感覚が鈍い、両手の握力の低下などを丁寧に拾い上げ、専門医には、自賠書式、脊髄症状判定用に記載をお願いして立証しています。
等級は、神経系統の機能の障害で、9級10号を目指すことになり、3椎以上の脊柱管拡大形成術が実施され、神経系統の機能の障害が消失したときは、11級7号、8級2号を目指すことになります。


(7)頚椎症性脊髄症?

頚椎は、18歳頃から、年齢に伴って変化、変性していきます。
具体的には、椎間板の水分が少しずつ蒸散し、弾力を失って座布団の役割が果たせなくなり、椎骨同士が直接的に擦れ合って変形し、椎体骨の配列の形が変化・変性してくるのです。

頚椎に年齢的な変化・変性が起こることを頚椎症、変形性頚椎症と呼ぶのですが、このことは、誰にでも、平等に起こることであり、変性自体は疾患ではなく、過剰に心配することでもありません。

ところが、変形性頚椎症の進行により、脊髄や神経根が圧迫され、痛み、痺れ、麻痺が出てくると、頚椎症性脊髄症あるいは頚椎症性神経根症という傷病名、疾患となります。
頚椎の中には、脊髄・中枢神経と神経根・末梢神経が通っています。
脳から脊髄が下行し頚椎の中に入り、神経根を介して末梢神経が上肢に走行しています。
中枢神経である脊髄は、頚椎を走行して、胸椎、腰椎と下行していきます。

頸椎断面

頚椎症性神経根症では、脊髄から枝分かれをした神経根という神経が圧迫されるために、頚部~肩、腕、指先にかけての痺れや疼痛、そして、手の指が動かしにくいなどといった、上肢や手指の麻痺の症状が出てきます。脊髄は圧迫されていないので、上肢の症状だけが出現します。

ところが、頚椎症性脊髄症では、脊髄が圧迫されるので、圧迫部位より下の手・足の症状、箸が持ちにくい、字が書きにくい、ボタンがはめにくいなど、手指の巧緻運動が困難となり、下肢が突っ張って歩きにくい、階段を降りるとき足がガクガクする、上肢の筋萎縮、脱力、上下肢および体幹の痺れ、症状がさらに進行すると膀胱直腸障害も出現します。

頸椎MRI

上の画像では、左受傷時のMRIでは、C4/5/6/7でヘルニアが脊髄を圧迫しています。
右術後のMRIでは、脊髄の流れが保たれています。

頸椎MRI

一方、この上の画像の右のMRIでは、片開き式椎弓形成術が実施されています。
ハイドロキシアパタイトのスペーサーにより、脊柱管が拡大されています。

頚椎症性神経根症では、初期は、保存療法が選択されています。
痺れに対してはリリカが処方され、疼痛が強いときは、ステロイドホルモンの内服が投与されます。
就寝時には、頚部を前屈させる枕を使用、頚部を後屈させないように矯正します。
安静加療と内服で、症状は徐々に改善していくのですが、頚椎症性脊髄症であっても、症状が進行したものは、オペが選択されています。
オペは、前方除圧固定術が一般的ですが、MRIで3カ所以上の広い範囲に脊髄の圧迫が認められるとき、脊柱管がやや狭まっているときは、後方からの椎弓形成術が行われています。

頚椎症性脊髄症における後遺障害のキモ?

1)歳のせい、事故のせい?
交通事故では、ここが大問題となります。
損保は、変形性頚椎症と聞けば、こうなったのは、歳のせい? 決めつけてきます。

ところが、医学では、先にも説明していますが、変形性頚椎症は、一定の年齢に達すれば誰にでも認められるもので、特徴であって、疾患、つまり病気ではないと断言しており、さらに、東京・名古屋・大阪の3地方裁判所は、年齢相応の変性は、素因減額の対象にしないと合議しています。
医師と裁判官が、言い切っているのですから、被害者はなにも、ビビル必要はありません。

事故前に症状がなく、通常の日常生活をしており、頚椎症で通院歴がなければ、事故後の症状は、事故受傷をキッカケとして発症したと考えればいいのです。

2)緻密な立証
後遺障害の立証では、もう少し緻密に進めています。
例えば、3椎以上の頚椎に、椎弓形成術を受けたものは、11級7号が認定されます。
脊髄症状に改善がなければ、神経系統の機能障害で9級10号、7級4号も期待されるのです。

これらが、因果関係ではねられては困りますから、受傷2カ月で撮影されたMRIで頚椎の変性状況を検証し、年齢相応の変性が認められるか、どうか、主治医の診断書を取りつけておきます。
これでも不十分と思われるときは、放射線科の専門医に、年齢相応の変性であるかどうか、鑑定を依頼して、鑑定書を添付しておきます。
後遺障害の申請では、機先を制することが重要です。

3)被害者の覚悟
頚椎の変性が大きく、疾患に相当する変形性頚椎症であると診断されたときは、示談交渉では、民法722条2項が類推適用され、素因減額の対象となります。
後遺障害等級も、それらにより薄められることが予想されます。
事前に判明したことは、その通りに説明し、被害者にも覚悟しておくことを促しています。

最高裁 S63-4-21判決
「素因減額とは、被害者に実際に生じた損害が、その事故によって通常発生するであろうと考えられる損害の程度と範囲を逸脱している場合に、その損害拡大が被害者自身の心因的要因や事故前からの基礎疾患に原因があると認められるときは、その拡大損害部分については被害者の自己負担とし、賠償の対象としないものとする。」


(8)腰部脊柱管狭窄症?

脊柱

脊髄が走行している脊柱管のトンネルが狭くなり、脊髄や神経根が圧迫される病気、疾患を脊柱管狭窄症と言い、狭窄の原因は、先天性の骨形成不全、後天的なものとしては椎間板ヘルニア、分離・すべり症、加齢に伴う椎間板、椎体、椎間関節や椎弓の退行性変性、軟部組織の肥厚によるものであり、負担のかかる腰部に多く発症しています。
いずれにしても、交通事故外傷で脊柱管が狭窄することはありません。

神経が圧迫されることで、狭窄のある部分の痛みや、下肢の痛み、しびれなどが出現します。
腰部の脊柱管狭窄の特徴的な症状として、歩行中や立ち続けたりしていると、下肢に痛みやしびれが出現して歩けなくなり、暫く休むと、症状が無くなることを繰り返す、間欠性跛行があります。

神経根が障害されると、下肢や臀部の痛み、しびれが、馬尾神経では、下肢や臀部にしびれ・だるさ感があり、頻尿などの排尿障害や排便障害をきたすこともあります。

頚部や胸部、腰部におよぶ広範脊柱管狭窄症では、四肢や体幹の痛み、しびれ、筋力低下、四肢の運動障害、間欠性跛行や排尿障害、排便障害をきたすことがあります。

確定診断はMRI画像で行われています。
各椎体の後方には、日本人の平均で前後径、約15mmの脊柱管があり、脊髄はこの中を走行していますが、基準として前後径が12mm以下となり、症状が出現していれば、脊柱管狭窄症と診断されます。

全体の70%は保存的療法で改善が得られています。
投薬による疼痛管理がなされ、温熱や電気による物理・運動リハビリが実施されています。
神経周囲の血流障害で症状が強くなることから、血管を拡張し、血流量を増やす薬剤の投与も実施されています。脊柱管は腰が反ることで狭くなりやすいため、前屈位の保持を目的に装具を装着することや、運動療法では主に姿勢の改善や腹部の筋力強化、ストレッチなどを行うことで症状を改善させていきます。

保存療法では症状が改善しないとき、症状が急激に進行中のとき、馬尾神経が圧迫され、膀胱・直腸障害の出現で、日常生活に大きな支障をきたすときは、オペが選択されています。

脊柱

従来の手術では、狭くなった脊柱管を広げることで症状を改善させていきます。
近年、これらのオペでは、専門医が内視鏡や顕微鏡が活用して効果を上げています。

腰部脊柱管狭窄症における後遺障害のキモ?

1)本当に、腰部脊柱管狭窄症の確定診断がなされているのか?
被害者のMRI画像所見は、変形性頚椎症=変形性脊椎症に類似しています。
また、訴える症状は、脊髄の圧迫が主であれば脊髄症を、神経根の圧迫が主であれば神経根症を、さらには、両方の症状を示すこともあり、この点、変形性脊椎症、頚椎症性脊髄症=脊椎症性脊髄症に酷似しているのです。

私は、MRI画像から脊柱管の前後径を計測し、本当に12mm以下であるかを検証しています。
ところが、臨床では、緻密な検証がなされることなく、脊柱管が狭窄気味かな?
そんな印象で、脊柱管狭窄症と診断されていることがほとんどなのです。

医学では、変形性脊椎症は、一定の年齢に達すれば誰にでも認められるもので、特徴であって、疾患、つまり病気ではないと断言しており、さらに、東京・名古屋・大阪の3地方裁判所は、年齢相応の変性は、素因減額の対象にしないと合議しているのです。

医師と裁判官が言い切っていても、損保は、脊柱管狭窄症の傷病名を確認すると、事故によるものではないと断定し、任意一括対応を打ち切ってしまいます。
つまり、加害者の不注意よりも、被害者の年齢変性が悪いとしているのです。

事故前に症状がなく、通常の日常生活をしており、頚椎症で通院歴がなければ、事故後の症状は、事故受傷による衝撃がキッカケとなって、発症したと考えればいいのです。
したがって、本当に脊柱管狭窄症なのか? これを疑って掛からなければならないのです。

2)そうは言っても、脊柱管狭窄症そのものは、交通事故を原因として発症するものではありません。
事故前に症状があり、脊柱管狭窄症と診断され、通院歴のある被害者は、当然ながら、一定の素因減額を覚悟しなければなりません。
やや古い判例ですが、H11-2-17、大津地裁判決は、59歳の男性に対して、事故自体は比較的軽微であるも、腰部脊柱管狭窄症、心因的要因などを理由に請求額の50%を損害として認めています。

厚生労働省は、広範脊柱管狭窄症を公費対象の難病と指定おり、以下の条件を満たせば、治療費は国庫負担されます。

①頚椎、胸椎または腰椎のうち、いずれか2つ以上の部位において脊柱管狭小化を認めるもの、
ただし、頚胸椎または胸腰椎移行部のいずれか1つのみに狭小化を認めるものは除く、

②脊柱管狭小化の程度は画像上、脊柱管狭小化を認め、脊髄、馬尾または神経根を明らかに圧迫する所見があるものとする。

③画像上の脊柱管狭小化と症状との間に因果関係の認められるもの、

④鑑別診断で、以下の傷病名は排除されています。
神経学的障害を伴わない変形性脊椎症、椎間板ヘルニア、脊椎脊髄腫瘍、神経学的障害を伴わない脊椎すべり症、腹部大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症、末梢神経障害、運動ニューロン疾患、脊髄小脳変性症、発性神経炎、脳血管障害、筋疾患、後縦靭帯骨化症 、黄色靭帯骨化症

※後縦靭帯骨化が症状の原因であるものは、後縦靭帯骨化症として申請すること、
※本症の治療研究対象は頸椎と胸椎、または頚椎と腰椎、または胸椎と腰椎のいずれかの組み合わせで脊柱管狭窄のあるものとする。

⑤運動機能障害は、日本整形外科学会頚部脊椎症性脊髄症治療成績判定基準の上肢運動機能Ⅰと下肢運動機能Ⅱで評価・認定されており、頸髄症では、上肢運動機能Ⅰ、下肢運動機能Ⅱのいずれかが2以下、ただしⅠ、Ⅱの合計点が7でも手術治療を行うときは認められています。
胸髄症・腰髄症では、下肢運動機能Ⅱの評価項目が2以下、ただし、3でも手術治療を行うときは認められています。

上肢運動機能Ⅰ
0 箸またはスプーンのいずれを用いても自力では食事をすることができない、
1 スプーンを用いて自力で食事ができるが、箸ではできない、
2 不自由ではあるが、箸を用いて食事ができる、
3 箸を用いて日常食事をしているが、ぎこちない、
4 正常

※利き手でない側については、紐結び、ボタン掛けなどを参考とする、
※スプーンは市販品であり、固定用バンド、特殊なグリップなどを使用しない、

下肢運動機能Ⅱ
0 歩行できない、
1 平地でも杖または支持を必要とする、
2 平地では杖又は支持を必要としないが、階段ではこれらを要する、
3 平地・階段ともに杖又は支持を必要としないが、ぎこちない、
4 正常

※平地とは、室内または、よく舗装された平坦な道路、
※支持とは、人による介助、手すり、つかまり歩行の支え、

症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しないが、高額な医療を継続することが必要なときは、医療費助成の対象とされています。
これ以上の詳細や手続は、厚生労働省のホームページ、指定難病をチェックしてください。
http://www.nanbyou.or.jp/entry/98
NPOジコイチは、厚生労働省に対する難病指定と治療費の国庫負担について、被害者が安心して療養できるように、申請のサポートをしています。

3)認定される後遺障害
脊柱の固定術等が実施されたときは、脊柱の変形等で11級7号が認定されます。
加えて、脊柱の可動域が、2分の1以下に制限されていれば、8級2号が認定されています。

保存療法にとどまるものの多くは、12級13号の認定ですが、過去には、四国の愛媛県で、脊髄症状として7級4号を認めたものも経験しています。

4)さらに、もう1つの注意点
受傷直後は、頚部捻挫の傷病名で、長期の治療が継続され、最終的に脊柱管狭窄症や後縦靭帯骨化症、頚腰部椎間板ヘルニア等の傷病名で、脊柱管拡大形成術に至ったものについては、損保料率機構調査事務所は、すべての治療先に症状照会を行い、自覚症状や他覚的所見などから、事故との因果関係を否認して等級を認定しないものが激増しています。

症状照会の用紙のタイトルは、以下の2種類です。
※神経学的所見の推移について
※頚椎捻挫・腰椎捻挫の症状の推移について
NPOジコイチでは、後遺障害診断の段階で、これらの用紙を提出し、記載の上、カルテに挟み込んで、いずれ実施される症状照会に備えています。

5)年齢変性であったとしても、自覚症状に一致していれば、他覚的所見?
The Wakayama Spine Study Osteoarthritis and Cartilage 2014-1月号、
世界最大規模のコホート研究であるThe Wakayama Spine Studyを解説しておきます。
The Wakayama Spine Studyに参加した一般住民は、21~97歳の1009名で、男性は335名、平均年齢は67.2歳、女性は674名、平均年齢は66.6歳です。

※コホート研究
cohort studyとは、分析疫学における手法の1つで、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べる観察的研究です。

MRIで、中等度以上の脊柱管狭窄は地域住民全体の76.5%に認められたのですが、MRIの脊柱管狭窄と症状の2つを有する症候性脊柱管狭窄症は、地域住民全体の9.3%に過ぎません。
つまり、80%近くの地域住民は、MRIで中等度以上の脊柱管狭窄を有しているものの、そのほとんどは、無症状の脊柱管狭窄症であったのです。
症状を伴う脊柱管狭窄症は、脊柱管狭窄を有する住民の12.22%に過ぎないのです。

損保は、脊柱管狭窄症は外傷性の傷病名ではなく、年齢変性そのものであって、本件事故との因果関係を認めることはできませんと言い切り、治療費の支払いさえ拒否しているのですが、症状がなく、通院歴もない脊柱管狭窄であれば、疾患と言えない普通の状態であるので、受傷前から腰部脊柱管狭窄が存在していたとしても、交通事故後に発症した症状であれば、交通外傷とは直接関係がないとは言い切れないという結論になります。

この意味で、The Wakayama Spine Studyは、被害者にとって、覚えておくべき貴重な論文です。
先にも説明していますが、末梢神経は、神経が剥き出し状態ではなく、さや※に包まれて走行しており、18歳から緩やかに始まる年齢変性は、さやで吸収され、具体的な症状となって現れないのです。

※神経鞘
末梢神経系の神経線維を包む透明な弾性薄膜で、シュワン細胞と呼ばれる細胞からなり、衝撃の吸収と栄養補給を担っています。

そこに、日常経験することのない交通事故の衝撃が加わると、どうなるでしょうか?
さやで受け止め切れず、末梢神経そのものが損傷することが予想・推測されるのです。

MRIで得られる画像所見は、すべてが年齢に伴う変性、椎間板ヘルニアや骨棘形成などです。
したがって、年齢変性であったとしても、自覚症状に一致していれば、他覚的所見となるのです。
これが認められないのであれば、ムチウチの14級9号、12級13号が認定されることはありません。

ただ1つ、困ったことがあります。
「MRI画像では、異常を認めない?」 後遺障害診断書にこの記載がなされていることです。
医師は、外傷性の画像所見を認めないとして記載しているのですが、被害者の年齢が30代以降であれば、ほぼ全員に、年齢変性が認められるのです。
ポイントは、年齢変性の画像所見と自覚症状の整合性にあるのです。

治療先同行による医師面談では、先に、ONISによるMRI画像分析の書面を作成して持参します。
矢印で指摘している書面を提出し、
MRIでは、C5/6右側に椎間板ヘルニアによる軽度な圧迫所見が見られるのですが、
これは、被害者の自覚症状に一致しており、その旨の記載をお願いしたいのです。
もちろん、外傷性所見ではありませんので、年齢変性と記載されても一向に構いません。
医師面談では、腰を折り、頭を下げて、こんなお願いをしているのです。
無症状の脊柱管狭窄症は、コホート研究では、80%近くを占めているのですから、損保がなんと喚こうとも、被害者は、後遺障害を諦めてはなりません。


(9)馬尾症候群

馬尾症候群

脊椎には、トンネル状の神経の通り道である脊柱管があります。
脊柱管内の脊髄は、腰椎、L1~2の高さで終わり、脊髄の下端から下肢へ延びていく脊髄神経根はしばらく脊柱管内を走行したあと、それぞれの高さから分岐しています。
この脊髄神経根の束は馬の尻尾に似ており、馬尾神経と呼ばれ、正常な状態では、ゆとりある広い脊柱管の中に脳脊髄液で満たされた筒状の袋の中を馬尾神経が走行しているのです。

馬尾神経は、臀部、陰部、下肢の運動・感覚をコントロールしているのですが、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症の素因がある被害者が、交通事故の衝撃により、馬尾神経が圧迫されたときに、腰痛や下肢の神経痛・しびれなどの感覚障害や下肢の運動麻痺、尿閉や尿・便の失禁、性機能、ED障害などを発症することがあり、それを馬尾症候群といいます。

馬尾症候群の診断は、強い腰下肢痛、下肢の感覚が鈍い、足の力が弱い、尿が出ないなどの自覚症状に基づき、筋力テスト、知覚テストなどの神経学的検査および膀胱機能検査で診断されています。
さらに、XP、MRIなど画像検査により、容易に診断することができます。

馬尾症候群が確定診断されると、迅速な治療が必要となります。
馬尾の浮腫を減じるために、ステロイド薬が投与されますが、特に、急性の腰椎椎間板ヘルニアや脊椎破裂骨折などを原因とする馬尾症候群では、24時間を経過すると神経症状の回復が不良とされており、緊急的に腰部脊柱管を拡大する手術が選択されています。
しかし、しびれや排尿障害については、確実に改善できる方法がありません。
対症療法として、最近では、プレガバリンという薬が投与されています。

馬尾症候群における後遺障害のキモ?

腰部脊柱管拡大形成術を受けるも、改善しないで残した神経症状を丹念に拾い上げて立証します。
ここでは、脊髄損傷を原因とした膀胱機能と直腸機能の直腸障害に絞って解説しておきます。

1)膀胱機能の障害
排尿障害は、膀胱内圧測定検査=ウロダイナミクスで立証することになります。
この検査では、膀胱内に造影剤を注入しつつ、膀胱の形態をみながら膀胱の機能をチェックするもので、強い痛みはなく30分程度で終了します。

等級 障害の内容と立証
排尿障害 9級11号 高度の排尿障害が認められるもの、
高度の排尿障害とは、脊髄損傷など神経因性の排尿障害の原因が明らかであると医師により診断されていることであり、残尿が100ml以上であることが、ウロダイナミクス検査で立証されていることです。
排尿障害 11級10号 中等度の排尿障害が認められるもの、
中等度の排尿障害とは、脊髄損傷など神経因性の排尿障害の原因が明らかであると医師により診断されていることで、残尿が50ml以上100ml未満であることが、ウロダイナミクス検査で立証されていることです。
蓄尿障害 11級10号 頻尿を残すと医師により認められるもの、
頻尿を残すとは、以下の3つのいずれの要件も満たさなければなりません。
①膀胱若しくは尿道の支配神経の損傷がウロダイナミクス検査で立証されていること
②日中8回以上の排尿が、医師の所見により認められること
③多飲など、頻尿となる他の原因が認められないこと

2)直腸障害
脊髄損傷に伴う直腸障害は、内圧カテーテルによって、肛門括約筋の力を測定する肛門内圧検査、肛門括約筋の形状を超音波画像として描き出す肛門管超音波検査を受けて立証します。

脊髄の横断面
肛門内圧検査

脊髄の横断面
肛門管超音波検査

等級 直腸障害の内容と立証
7級5号 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
肛門括約筋機能の全部が失われ、大便を自分の意思によらずに排泄してしまう完全便失禁状態のこと
9級11号 胸腹部臓器機能障害で、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
便を手で掻き出す必要がある便秘=用手摘便
大便を自分の意思によらずに排泄してしまうため、常時おむつの装着が必要なもの
11級10号 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
常に便が硬く、排便回数が週2回以下の頻度の便秘で、排便に関する神経の損傷がMRIなどで確認できるもの
大便を自分の意思によらずに排泄してしまうが、常時おむつの装着は必要ないもの

(10)後縦靱帯骨化症 OPLL

脊柱

椎体の背中側で脊髄の前側には、後縦靭帯が、椎弓の前側で脊髄の背中側には黄色靭帯が縦走しており、これらの靱帯によって、椎体骨は補強され、安定しています。
後縦靱帯骨化症とは、脊髄の前方に位置する後縦靱帯が肥厚、骨化したことを原因として、脊髄の走行している脊柱管が狭くなり、脊髄や脊髄から分枝する神経根が圧迫を受けて、知覚障害や運動障害などの神経障害を発症する疾患、つまり病気です。
交通事故で後縦靱帯が骨化することは、あり得ないのです。
後縦靭帯骨化症は頚椎に多く、黄色靭帯骨化症は、胸椎に多い疾患です。

後縦靱帯骨化症 OPLLにおける後遺障害のキモ?

後縦靱帯骨化症 OPLL
中央部の縦に白い線が骨化巣です。

1)OPLLでも、多くの被害者は、「事故前は無症状であったが、本件事故の直後から脊髄症状が出現、就労不能となり、手術に至ったものである?」 と事故後の症状経過について申告しています。
ところが、損保は事故との因果関係を全面否定し、元々の疾患・病気と主張して譲りません。

被害者として、納得ができないのは分かりますが、XP、CTで後縦靱帯の骨化巣が確認されたときは、疾患を否定することはできず、一定の素因減額を受け入れることになります。

請求できるものは、外傷性頚部症候群としての平均的な損害賠償であり、6カ月間の治療費、慰謝料、受傷から3カ月程度の休業損害、通院交通費に過ぎません。
事故発生状況によっては、14級9号の後遺障害が期待できますが、それ以上ではありません。
入院・手術の治療費、入院雑費、この間の休業損害は否定される傾向です。
NPOジコイチでは、諦めるべきは、あっさりと諦めるよう、丁寧に説明をしています。

2)厚生労働省は、後縦靱帯骨化症を公費対象の難病と指定おり、以下の条件を満たせば、治療費は国庫負担されています。

①画像所見で後縦靱帯骨化または黄色靱帯骨化が証明され、それが神経障害の原因となって、日常生活上支障となる著しい運動機能障害を伴うもの、

②運動機能障害は、日本整形外科学会頚部脊椎症性脊髄症治療成績判定基準の上肢運動機能Ⅰと下肢運動機能Ⅱで評価・認定されており、頸髄症では、上肢運動機能Ⅰ、下肢運動機能Ⅱのいずれかが2以下、ただしⅠ、Ⅱの合計点が7でも手術治療を行うときは認められています。
胸髄症・腰髄症では、下肢運動機能Ⅱの評価項目が2以下、ただし、3でも手術治療を行うときは認められています。

上肢運動機能Ⅰ
0 箸またはスプーンのいずれを用いても自力では食事をすることができない、
1 スプーンを用いて自力で食事ができるが、箸ではできない、
2 不自由ではあるが、箸を用いて食事ができる、
3 箸を用いて日常食事をしているが、ぎこちない、
4 正常

※利き手でない側については、紐結び、ボタン掛けなどを参考とする、
※スプーンは市販品であり、固定用バンド、特殊なグリップなどを使用しない、

下肢運動機能Ⅱ
0 歩行できない、
1 平地でも杖または支持を必要とする、
2 平地では杖又は支持を必要としないが、階段ではこれらを要する、
3 平地・階段ともに杖又は支持を必要としないが、ぎこちない、
4 正常

※平地とは、室内または、よく舗装された平坦な道路、
※支持とは、人による介助、手すり、つかまり歩行の支え、

症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しないが、高額な医療を継続することが必要なときは、医療費助成の対象とされています。
これ以上の詳細や手続は、厚生労働省のホームページ、指定難病をチェックしてください。
http://www.nanbyou.or.jp/entry/98

NPOジコイチでは、厚生労働省に対する難病指定と治療費の国庫負担について、被害者が安心して療養できるように、申請のサポートをしています。


(11)頚椎前方除圧固定術と嚥下・開口・嗄声

頚椎には、頚部脊柱管という脳から続く脊髄神経=赤矢印が通っている管があります。
この部分で脊髄神経が圧迫されると、上肢の痛み、筋力低下による手足のしびれや麻痺など、日常生活や社会生活で大きな支障をきたす様々な症状が出現します。

頚椎椎間板ヘルニア、骨棘形成による頚椎症、OPLL(頚椎後縦靭帯骨化症)、頚椎不安定性、頚部脊柱管狭窄症などを原因として脊髄神経が圧迫されたとき、神経の麻痺症状が重篤で、排尿・排便障害を伴うときは、オペで神経の圧迫を取り除き、症状の軽快や進行の予防を講じなければなりません。

脊髄神経に対して、前方向からの圧迫が中心で、病変が2椎間の範囲であれば、頚椎前方除圧固定術が実施されています。ところが、頚椎前方除圧固定術を受けた被害者に、気道狭窄による呼吸障害、嗄声=かすれ声、嚥下障害などの合併症を残すことがあるのです。

その原因を理解する必要から、オペの内容をかいつまんで説明しておきます。

オペは、気管内に人工呼吸のためのチューブを挿入し、全身麻酔下で行われています。
頚部の前面に6~7cmの皮膚切開で皮下組織を切離し、さらに頚部前面の筋肉を左右に分け、次に食道・気管を内側に、総頚動脈・静脈を外側に寄せると、頚椎の前面が現れるのですが、XPで目的とする部位を確認しつつ、顕微鏡下で手術用ドリルを用いて椎体前面から後方へ、脊髄神経側まで、慎重に骨を削っていきます。一連の操作で、脊髄神経を圧迫しているヘルニアや骨棘が確認できるので、それらを取り除きます。圧迫が解除された時点で、手術の目的が達成されたことになります。
削った骨の部分に、腸骨の一部を移植して固定します。
脊髄神経への圧迫が取り除かれたことを確認し、皮膚を閉じオペは終了します。

オペに伴う、代表的な合併症は、術後気道狭窄、嗄声、嚥下障害の3つです。

1)嚥下(えんげ)障害
手術中、食道を圧迫するために、術後、嚥下障害が出現することがあります。

2)嗄声=かすれ声
反回神経の障害や手術中の気道圧迫などにより、嗄声が出現することがあります。
また、気管挿管の影響により、手術後に喉の不快感や声がかれたりすることがあります。

3)術後気道狭窄
手術中、気管を圧迫するために、術後、気道狭窄による呼吸障害を合併することがあります。

いずれも一過性のもので、通常は、数日から数週間で改善すると見られていますが、私の経験則では、これまでに、嗄声で12級相当が2件、嚥下障害では、併合5級と併合4級の2件が、後遺障害として認定されています。

1)嚥下障害とは?
嚥下のシステムは、通常、私達は歯でかみ砕いた食物を舌で咽頭に送り込み、飲み下します。
このとき、軟口蓋が上方に移動して、口腔と鼻腔を遮断してくれます。

同時に、絶妙のタイミングで咽頭蓋によって気管に蓋がなされ、飲み込む瞬間に限って開く食道に、食物を送り込んでいるのです。これらの複雑な運動を支配している神経や筋肉が障害されたときは、嚥下障害を発症します。

相談の被害者は、57歳男性、青信号で横断歩道を歩行中に、対向右折車にはね飛ばされました。
頚椎、C5/6の脱臼骨折と診断され、前方固定術が実施されたのですが、右半身麻痺による歩行困難、右上肢の脱力などの脊髄症状を残し、9級10号が、嚥下困難は、C5/6頚椎脱臼骨折および頚椎前方固定術に起因するものと捉えられ、そしゃく状況報告表では、お粥、うどん、軟らかい魚肉またはこれに準ずる程度の飲食物でなければ嚥下できないところから、6級相当が認定されました。

これは、X線透視下の嚥下造影検査、さらに、頚椎MRIで立証したのですが、前方固定部の骨化が進行し、椎体前方の食道や気管を圧迫したことによる嚥下障害と診断されました。
2つの等級は、併合され、併合5級となりました。

もう1例は、交通事故、頚椎椎間板ヘルニアによる圧迫でC3/4の前方固定術を受けています。
この被害者よりは、術後からムセ込むことが増えて困っているとの訴えです。
被害者には、医大系の耳鼻咽喉科で徹底的な検査を受けるように指示しました。
視診では、器質的変化はなかったのですが、嚥下するときの咽頭ファイバー検査で、咽頭反射の減弱が認められました。
アイスマッサージの指示がなされ、6カ月間の治療を継続したのですが、改善は得られず、咽頭知覚の低下による中程度の嚥下障害が認められたのです。
これらの結果をまとめて、被害者請求を行い、脊髄症状で5級2号、嚥下障害で10級相当、併合4級が認定されました。

嚥下障害における後遺障害のキモ?

1)嚥下障害は、どこの科で検査を受けるのか?
嚥下障害の診療は、一部のリハビリテーション科と耳鼻咽喉科、歯科が担当しています。
しかし、検査を受けるとなると、専門としている病院、診療科は全国でも数少ないのが現状です。
例えば、大阪大学歯学部附属病院では、顎口腔機能治療部が担当しています。
地元の医大系の総合病院でないと対応できません。

2)どんな検査を受けて立証するのか?
①嚥下障害は、被害者が記載する自賠様式、「そしゃく状況報告表」を提出しなければなりません。
それだけにとどまらず、VF検査=嚥下造影検査を受けて立証します。

VF検査=嚥下造影検査

この検査では、嚥下動作の全過程を画像として捉えることができるだけでなく、咽頭・喉頭部や食道、頸椎の解剖学的な異常も観察することができます。

②もう1つは、鼻咽腔ファイバーによる嚥下内視鏡検査です。

鼻咽腔ファイバー
鼻咽腔ファイバー

直径約3.5ミリ、長さ約35cmの軟性鏡で手元のレバーを操作して内視鏡の先端を曲げ、飲み込みの状態を観察・評価するものです。

3)嚥下障害の後遺障害等級?
咀嚼とは、噛み砕くこと、嚥下とは飲み下すことですが、嚥下障害では、咀嚼障害の等級を準用して等級が認定されています。

等級 内容
1級2号 咀嚼機能を廃したもの
流動食以外は摂取できないもの
3級2号 咀嚼機能を廃したもの
味噌汁、スープ等の流動食以外は受けつけないもの
4級2号 咀嚼機能に著しい障害を残すもの
粥食またはこれに準ずる程度の飲食物以外は摂取できないもの
6級2号 咀嚼の機能に著しい障害を残すもの
お粥、うどん、軟らかい魚肉またはこれに準ずる程度の飲食物でなければ噛み砕けないもの
9級6号 咀嚼の機能に障害を残すもの
固形食物の中に咀嚼ができないものがあることまたは咀嚼が十分にできないものがあり、そのことが医学的に確認できるもの
10級3号 咀嚼の機能に障害を残すもの
ご飯、煮魚、ハム等は問題がないが、たくあん、ラッキョウ、ピーナッツ等は駄目なもの

1、3級は完全介護の状態です。
4、6級の障害も重度で、自分自身で食事をすることができない状態です。

嚥下障害単独の症状であれば、通常、10級3号が対象となります。
本件からは外れますが、頭部外傷による脳神経の損傷、脳梗塞で咽喉支配神経が麻痺したときにも、嚥下障害を発症します。
高次脳機能障害の患者からその症状を拾い出すと、嗅覚障害、味覚障害等、五感にまつわる障害が出てくることがあります。これは脳の機能が壊れてしまったとき、それぞれ嗅覚神経、味覚神経の経路に問題が生じてしまったときが想定されます。
嚥下障害では、後者に当てはまります。
小脳や脳幹部に損傷があるときは、嚥下障害も当然に疑って対応をしています。

※開口障害
開口は、正常であれば、男性で55mm、女性で45mmが日本人の平均値です。
これが2分の1以下に制限されると、開口障害により咀嚼に相当の時間を要することになり、12級相当が認定されます。

開口障害

男女とも、指2本を口に挿入できなくなったときは、後遺障害の対象となります。

2)頚椎前方除圧固定術に伴う嗄声=かすれ声?

反回神経障害やオペ中の気道圧迫などにより、また気管挿管の影響により手術後に喉の不快感や声がかすれる、嗄声が出現することがあり、それらを解説します。

反回神経障害やオペ中の気道圧迫などにより、また気管挿管の影響により手術後に喉の不快感や声がかすれる、嗄声が出現することがあり、それらを解説します。

ヒトが発声するときは、左右の声帯が中央方向に近寄って気道が狭まり、呼気により声帯が振動することにより発声しています。
また、食物を飲み込む=嚥下するときには、嚥下したものが気管に入り込まないように左右の声帯は強く接触して気道を完全に閉鎖しているのです。
このような声帯の運動性は、反回神経によりコントロールされています。

男女とも、指2本を口に挿入できなくなったときは、後遺障害の対象となります。

反回神経麻痺では、息もれするような声がれ、誤嚥、むせるといった症状を引き起こします。
両側の反回神経を損傷すると、左右の声帯が中央付近で麻痺して動かなくなり、気道が狭まり、呼吸困難や喘鳴(ぜんめい)、ゼーゼーした呼吸音を生じます。

反回神経は、脳から伸びる迷走神経の枝であり、声帯を動かす働きをしています。
この神経は、脳からダイレクトに喉頭にジョイントするのではなく、肺の内側の縦隔まで下行して走行した後、反回して、長いルートをたどり、最終的に喉頭の声帯に到達して喉頭筋を支配しているのです。

交通事故では、プロレスのラリアートのような咽頭部に対する強い打撃、頚椎の脱臼や椎体骨折、頭部外傷、縦隔気腫に合併しています。その他に、気管挿管もしくは抜去するときに、声帯の披裂軟骨を脱臼するなど声帯に損傷を受けることにより、かすれ声=嗄声(かせい)を残すことがありますが、これは、反回神経麻痺ではありません。

本件では、頚椎前方除圧固定術に合併する嗄声=かすれ声を解説しているのですが、オペ中の反回神経の障害や気道圧迫、また、気管挿管の影響を想定しています。
初発症状は、声がれですが、脳幹に近い頭部外傷では、舌咽神経や副神経などの他の脳神経が近くを走行しており、声がれ、飲食でむせる以外に、声が鼻にもれる、飲み込んだときに鼻へ逆流する舌咽神経麻痺の症状、副神経の症状により、肩が痛い、肩が上がりにくいなどを合併します。

検査では、ファイバースコープで、声帯の動きを観察し、診断されています。
原因を特定するには、頚部、胸部のXP、CT、食道造影、上部消化管内視鏡検査などが行われます。
その他に、筋電図や発声時のX線透視検査を行って鑑別されています。
筋電図検査は、麻痺の程度や回復の見込みを判断する上で、極めて有用な検査です。

治療ですが、急性期では、ビタミンB12、アデノシン酸などの末梢循環改善剤や消炎鎮痛解熱剤としてステロイドなどが経口投与されています。麻痺の発症から6カ月を経過しても症状の改善がないときは、機能を改善する目的でオペが実施されており、誤嚥などの症状が強いときには、オペ時期が早められています。

オペには、麻痺した声帯にコラーゲンや脂肪を注入して膨らませる方法と、頚部を切開してシリコン板を挿入するか、声帯を動かす軟骨や筋肉を牽引する方法があります。
コラーゲンや脂肪の注入術では、その後、注入した物質が吸収されることがあり、同じ術式が繰り返されることも予想されます。頚部切開法では、局所麻酔下に発声させながら、声の改善を確認しながらのオペであり、確実性、安定性に優れています。
両側反回神経麻痺による気道狭窄では、気管切開、片側声帯の外方牽引術などが実施されます。

反回神経麻痺における後遺障害のキモ?

1)反回神経麻痺などで予想される後遺障害は、かすれ声、嗄声(かせい)が代表的です。
事故後、かすれ声を残したときは、耳鼻咽喉科における咽頭ファイバースコープで、他覚的所見を立証しなければなりません。

2)咽頭部への直接的な打撃や気管挿管もしくは抜去するときの声帯の披裂軟骨脱臼では、咽頭ファイバースコープで発見できないことが予想されます。
そんなときは、筋電図や発声時のX線透視検査で立証しなければなりません。

3)整形外科医が作成した後遺障害診断書で、傷病名が頚部捻挫、自覚症状欄に、右上肢の痛み、重さ感、だるさ感、かすれ声、 画像所見欄に、MRIにて、C5/6右神経根の圧迫を認め、上記の自覚症状と画像所見は一致していると記載されていても、認定されるのは、14級9号がやっとです。

4)「かすれ声は、聞けば分かるから、検査は必要ありません?」 
とんでもない弁護士がいましたが、調査事務所は、「事故の前から、ハスキーボイスではなかったの?」 そんな姿勢で等級を審査していますから、耳鼻咽喉科における検査で他覚的所見が立証されない限り、12級相当が認定されることはありません。


(12)横隔膜ペーシング

東野圭吾の小説、「人魚の眠る家」 は、6歳になる少女がプールで溺れ、脳死状態となったもので、脳死判定と臓器提供をテーマとする問題作ですが、その少女は、最新式の横隔膜ペーシングを装着、人工呼吸器から解放され気管切開を閉じて、自宅で生活するようになります。

横隔膜ペーシング

2014年1月9日、湘南藤沢徳洲会病院は、国内で初めてALS=筋萎縮性側索硬化症の患者さんに横隔膜ペーシングの植え込み手術を実施しています。

横隔膜ペーシングは、呼吸のタイミングに合わせ、神経や筋肉に電気による刺激を与え、人工的に横隔膜を動かす装置で、これにより、患者は、人工呼吸器を外し、気管切開を閉じて退院、自由に喋ることができて、その上自宅での生活ができることになります。
オペは、腹腔鏡下で実施され、横隔膜に左右2本ずつ電極を植え込んだ後、リード線を腹腔外に出してペースメーカーに接続して完了です。

外部制御装置は、上記の大きさであり、カバンに入れて持ち運ぶことができる画期的なものです。
もちろん、自発呼吸のできない上位頚髄損傷の被害者にも適用できるものです。

レスピレーターに頼る被害者にとっては、福音をもたらすものです。
費用はアメリカFDAによれば、10万ドル、日本円で1100~1300万円、健保の適用はありません。
損保にとっては、悩み深い問題ですが、これからは、弁護士が裁判で立証することで、横隔膜ペーシングの植え込み手術が増えてくることを予想しています。