57歳、専業主婦が普通乗用車で信号待ち停止中、加害自動車の追突を受けたものです。
当初は腰椎椎間板ヘルニアと診断されていたのですが、固定術を実施した治療先の医療過誤により、排尿は自己導尿に頼らなければならず、排便は人工肛門造設となり、脊髄不全麻痺などで2級1号が認定されています。

損保の反論

①軽度な追突事故であるのに、これほど障害を負うことは考えられず、現在の障害は、本件交通事故によるものではなく、手術をした病院の医療過誤によるものである?
②介護料については、請求額の50%で十分である?

弁護士の主張

①被害者は当初、併合3級の認定であったが、実際は、それ以上の重い障害に苦しんでいました。
弁護士は、専門医に再検査による障害の立証を依頼し、新たな後遺障害診断書を取得した上で、自賠責保険に対して異議申立を行い、等級を併合3級から2級1号に引き上げた後に提訴しています。

②医療過誤による症状の悪化は疑いのない事実でしたが、H13-3-13の最高裁判例を引用して法律論をしっかり展開し、例え、医療過誤が事実であったとしても、賠償に関しては交通事故との共同不法行為であり、賠償は、まず交通事故で償うべきで、両者の関係は、加害者と治療先の関係の中で、改めて協議すべきものと主張しています。

⇒当然ながら、裁判所は、最高裁判例を重視し、共同不法行為であることを認めています。

③弁護士は、被害者の現在症状を専門医の意見書と仕事を辞めて自宅介護をしている夫の陳述書で立証、等級が2級1号より、むしろ1級に近いとして、家族介護と職業介護の併用が必要であると主張、職業介護日額1万円、家族介護日額7000円、将来介護料として5300万円を請求しています。

⇒裁判所は、請求の全額を認定しました。

住宅改造費1000万円、介護器具・雑費で900万円、和解調整金1100万円、総損害額1億6000万円、自賠責保険金を控除して1億3000万円の損害賠償額が実現できました。

NPOジコイチのコメント

H13-3-13、最高裁第三小法廷判決は、交通事故受傷と、その後に適切な経過観察を怠った医療過誤により被害者が死亡するに至った事案で、民法719条(共同不法行為)の成立を認めています。

脊髄損傷の検討

同判例は、事案を、「交通事故により、放置すれば死亡するに至る傷害を負ったものの、事故後搬入された被上告人病院において、通常期待されるべき適切な経過観察がされるなどして急性硬膜外血腫が早期に発見され適切な治療が施されていれば、高度の蓋然性をもって、救命できたということができるから、本件交通事故と本件医療事故とのいずれもが死亡という不可分の一個の結果を招来し、この結果について相当因果関係を有する関係にある」と分析しました。

その上で、「本件交通事故における運転行為と本件医療事故における医療行為とは民法719条所定の共同不法行為に当たるから、各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負うべきものである。」と判示しています。

共同不法行為で連帯責任を負うときは、被害者は、いずれか一方に損害の全額を請求、あとは、加害者同士で話し合って按分比例すればいいじゃないの、いずれにしても、そんなことは被害者の知ったことじゃありません! が通用するのです。
そして、不可分の一個の結果は、死亡事故に限定されていません。
交通事故と医療過誤が競合し、なんらかの後遺障害を残したときも、当然に適用されるのです。

医療過誤との競合でなく、交差点で2台の自動車が出合い頭衝突し、歩道で信号待ちをしている被害者が巻き込まれたときは、被害者は、2台の加害車両に個別に損害賠償を請求するのではなく、双方の過失割合に関係なく、共同不法行為として、いずれか1台に損害の全額を請求すればいいのです。

本件では、加害者の損保は、損害の多くは医療過誤によるものと主張し、責任を放棄しています。
これにまともに取り合うなら、交通事故と医療過誤による2つの損害賠償請求訴訟を提起しなければならなくなり、解決に膨大な時間を要することになります。
現に、私が保険調査員時代、この2つのナンセンスな訴訟提起を経験しています。

本件では、交通事故と医療過誤の関係について、最高裁判例を明示して主張し、交通事故に一本化して裁判を早期に終わらせることができたところが大きく評価できるのです。

※交通事故と医療過誤の競合事案についての最高裁判決全文

H13-3-13、最高裁判所第三小法廷判決 損害賠償請求事件(判例時報1747号87頁)

1)争点

①運転手の過失、被害者の過失、医師の過失、被害者両親の過失の有無?
②交通事故と医療過誤が競合し、運転行為と医療行為とが共同不法行為に該当する場合に、各不法行為者が責任を負うべき損害額を、被害者の被った損害額の一部に限定することができるか?
③運転行為と医療行為とが共同不法行為に該当する場合に、各不法行為者と被害者との間の過失相殺の方法?

2)事案

6歳男児の被害者Aが自転車を運転し、一時停止を怠って時速約15kmの速度で交通整理の行われていない交差点内に進入したところ、同交差点内に減速することなく進入しようとしたK株式会社従業員Bが運転するタクシーと接触し、転倒した。(以下「本件交通事故」という。)
Aは、本件交通事故後、直ちに、Yが経営するY病院に救急搬送された。
Yの代表者でY病院院長であるC医師は、Aを診察し、左頭部に軽い皮下挫傷による点状出血を、顔面表皮に軽度の挫傷を認めたが、Aの意識が清明で外観上は異常が認められず、Aが事故態様についてタクシーと軽く衝突したとの説明をし、前記負傷部分の痛みを訴えたのみであったことから、Aの歩行中の軽微な事故であると考えた。
そして、C医師は、Aの頭部正面および左側面から撮影したXP写真を検討し、頭蓋骨骨折を発見しなかったことから、さらに、Aについて頭部のCT検査を実施し、病院内で相当時間経過観察をするまでの必要はないと判断し、前記負傷部分を消毒し、抗生物質を服用させる治療をした上、AおよびAの母親Dに対し、「明日は学校へ行ってもよいが、体育は止めるように、明日も診察を受けに来るように、」「なにか変わったことがあれば来るように、」 との一般的指示をしたのみで、Aを帰宅させた。

Aは帰宅直後に嘔吐し、眠気を訴えたため、Dは疲労のためと考えてそのまま寝かせたところ、Aは、夕食を欲しがることもなく午後6時30分頃に寝入った。
Aは、同日午後7時ころには、鼾をかいたり、涎を流したりするようになり、かなり汗をかくようになっていたが、DおよびAの父親Eは、多少の異常は感じたものの、Aは普段でも鼾をかいたり涎を流したりして寝ることがあったことから、この容態を重大なこととは考えず、同日、午後7時30分頃、氷枕を使用させ、そのままにしておいた。
しかし、Aは、同日午後11時頃には、体温が39°まで上昇して痙攣様の症状を示し、午後11時50分頃には、鼾をかかなくなったため、両親は初めてAが重篤な状況にあるものと疑うに至り、翌13日、午前0時17分頃、救急車を要請した。
救急車は同日、午前0時25分にA方に到着したが、Aは、既に脈が触れず呼吸も停止しており、同日午前0時44分、F病院に搬送されたが、同日午前0時45分、死亡した。(以下「本件医療事故」という。)
Aの両親であるDおよびEが原告となり、Yを被告として提訴し、交通事故の加害者であるB運転手およびBが勤務するK株式会社が原告DおよびEに補助参加した。

3)損害賠償請求額

Aの両親が控訴審(原審)で請求した額は、6983万9618円
内訳:逸失利益4183万9618円+慰謝料2200万円+葬儀費用100万円+弁護士費用500万円

控訴審(原判決)認容額は、2015万4634円
過失相殺前の損害(弁護士費用を除く)の内訳:逸失利益2378万8076円+慰謝料1600万円+葬儀費用100万円=合計4078万8076円
本件死亡事故に対する医療過誤の寄与度を50%、被害者側の過失相殺率を10%として、
損害額 4078万8076円×0.5×0.9=1835万4634円
これに弁護士費用180万円を加算した金額が控訴審の認容額

4)判決による請求認容額

最高裁判所の認容額 3800万9268円
過失相殺前の損害額(弁護士費用を除く):4078万8076円(控訴審と同一)
被害者側の過失を10%として過失相殺した金額3670万9286円から、補助参加人K株式会社から葬儀費用として支払われた50万円を控除し、これに弁護士費用相当額180万円を加算した金額が最高裁判所の認容額

5)裁判所の判断

運転手の過失、被害者の過失、医師の過失、被害者両親の過失の有無 
交通事故について、交差点に進入するに際しての注意義務を懈怠した、運転手Bの過失を認めるとともに、Aにも、交差点に進入するに際しての一時停止義務、左右の安全確認義務を怠った過失があり、Aの過失割合は30%が相当であると判断しました。

そして、Aは、頭蓋外面線状骨折による硬膜動脈損傷を原因とする硬膜外血腫により死亡したと死因を認定した上で、交通事故により頭部に強い衝撃を受けている可能性のあるAの診療に当たったC医師は、外見上の傷害の程度にかかわらず、当該患者ないしその看護者に対し、病院内にとどめて経過観察をするか、仮にやむを得ず帰宅させるにしても、事故後に意識が清明であっても、その後硬膜外血腫の発生に至る脳出血の進行が発生することがあること、およびその典型的な前記症状を具体的に説明し、事故後少なくとも6時間以上は慎重な経過観察と、前記症状の疑いが発見されたときには直ちに医師の診察を受ける必要があること等を教示、指導すべき義務が存したのであって、C医師にはこれを懈怠した過失があると認めました。

更に、Aの両親であるDおよびEについても、除脳硬直が発生して呼吸停止の容態に陥るまでAが重篤な状態に至っていることに気付くことなく、何らの措置をも講じなかった点において、Aの経過観察や保護義務を懈怠した過失があり、その過失割合は10%が相当であると判断しました。

交通事故と医療過誤が競合し、運転行為と医療行為とが共同不法行為に該当する場合に、各不法行為者が責任を負うべき損害額を、被害者の被った損害額の一部に限定することができるか
本件交通事故により、Aは放置すれば死亡するに至る傷害を負ったものの、事故後搬入されたY病院において、Aに対し通常期待されるべき適切な経過観察がされるなどして脳内出血が早期に発見され適切な治療が施されていれば、高度の蓋然性をもってAを救命できたと認定して、本件交通事故と本件医療事故とのいずれもが、Aの死亡という不可分の一個の結果を招来し、この結果について相当因果関係を有する関係にあると判示しました。

その上で、本件交通事故における運転行為と本件医療事故における医療行為とは民法719条所定の共同不法行為に当たるから、各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負うべきものであるとの判断を示しました。

その理由として、共同不法行為によって被害者の被った損害は、各不法行為者の行為のいずれとの関係でも相当因果関係に立つものとして、各不法行為者はその全額を負担すべきものであり、各不法行為者が賠償すべき損害額を案分、限定することは連帯関係を免除することとなり、共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとしている民法719条の明文に反し、これにより被害者保護を図る同条の趣旨を没却することとなり、損害の負担について公平の理念に反することとなるからであると判示しました。

そして、被害者との関係においては、各不法行為者の結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害の額を案分し、各不法行為者において責任を負うべき損害額を限定することは許されないとして、そのような判決を下した原審には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであると判示しました。

運転行為と医療行為とが共同不法行為に該当する場合に、各不法行為者と被害者との間の過失相殺の方法 前提として、本件は、本件交通事故と本件医療事故という加害者及び侵害行為を異にする2つの不法行為が順次競合した共同不法行為であり、各不法行為については加害者および被害者の過失の内容も別異の性質を有するものであると認定しました。

そして、過失相殺は不法行為により生じた損害について加害者と被害者との間においてそれぞれの過失の割合を基準にして相対的な負担の公平を図る制度であるから、本件のような共同不法行為においても、過失相殺は各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり、他の不法行為者と被害者との間における過失の割合を斟酌して過失相殺をすることは許されないと判示しました。

その上で、本件においてYの負担すべき損害額は、Aの死亡によるDおよびEの損害の全額(弁護士費用を除く。)である4078万8076円につき被害者側の過失を1割として過失相殺による減額をした3670万9268円から補助参加人K株式会社から葬儀費用として支払を受けた50万円を控除し、これに弁護士費用相当額180万円を加算した3800万9268円となると算定しました。

つまり、交通事故についてのAの過失30%を病院との関係で過失相殺することを認めませんでした。