脊髄損傷の検討

大卒後、資格取得を目指してアルバイト中の25歳男性が乗用車を運転し、交差点で信号待ち停止中に、居眠り運転の大型貨物車の追突を受けたもので、C5頚椎の脱臼骨折による頚髄損傷で1級3号が認定されています。

損保の反論

①1級3号が認定されているが、上肢の機能は一部残しており、喪失率は100%ではない?
②被害者は、公的給付を受けられるので、介護料は減額されるべき?

弁護士の立証

本件の被害者には、麻痺に伴って痙性(痙縮)※の症状が重度であり、筋肉や関節が固く強ばり、両下肢の突発的な痙攣発作を制御することができない状態でした。
そのため、介護の母親は、体位変換や排泄の介助などで、通常以上の重労働を強いられていました。

①弁護士は、痙性による日常介護の実態を主治医の意見書と母親の陳述書で克明に立証し、特に、排尿・排便の介助中や車椅子で移動中に痙攣発作を発症するなど、安全上のリスクがあり、介護機器の操作についても補助が必要であって、常時介護を要する状態であることを重点的に立証し、職業介護人の導入を含む将来介護料を請求しています。

②市役所からの福祉手当などの公的給付は、社会福祉制度に基づく給付であり、損害を填補する性質のものではなく、公的給付を前提に損害を算定するのは相当とはいえないこと、
国の財政事情が不安定であり、将来にわたって現在水準の公的給付が受けることができるかは不確定であること
を主張しました。

⇒裁判所は、弁護士の主張を認め、被害者の母親が70歳になるまでは、1日5時間の内職に対し職業介護人の必要性を認め、70歳までは日額1万5000円、70歳以上は、日額1万8000円の将来介護料、8100万円を認定しています。

住宅改造費1500万円、逸失利益は、賃金センサス男性大卒計を基礎収入として8300万円、後遺障害慰謝料では、本人が2800万円、両親分が500万円、総額2億6900万円の損害賠償を実現しました。

※痙性(痙縮)
脊髄損傷が慢性期に入ると、動かせないはずの筋肉が、本人の意思とは関係なく、突然強張る、痙攣を起こすことがあり、これを痙性、痙縮と呼んでいます。
麻痺している領域の腱反射が亢進し、皮膚刺激や内臓刺激、骨と関節の刺激などに対して、筋肉が、一斉に収縮することにより、筋肉の痙攣が起こります。

自分でコントロールすることができず、重度では、日常生活に支障をきたします。
痙性の原因となる皮膚刺激では、褥瘡や皮膚の化膿、陥入爪などが、内臓刺激としては便秘、尿路感染症結石などが、骨と関節の刺激では、骨折、脱臼、異所性骨化などが挙げられます。

脊髄損傷の検討

痙性歩行では、下肢が鋏状に交差します。

1)メカニズム
脊髄損傷では、当初、脊髄ショックにより、筋肉が衰弱して軟化します。
脊髄ショック状態が終了すれば、反射活動は復帰するのですが、損傷レベル以下では、脳からの指令が中断し、こうした信号を脳の反射中枢に届けることもできません。
すると、脊髄は、身体の反応を緩和しようと試みるのですが、脊髄は脳に比較すると非効率的であり、痛感部位に戻される信号がしばしば過度に誇張されることがあるのです。
これが、痙性緊張亢進と呼ばれる筋肉の過剰反応で、症状としては、自らで制御できない筋肉のピクピクした動き、筋肉の硬直や直立、筋肉または筋肉群のショック状収縮、異常筋緊張があります。

ほとんどの脊髄損傷患者は、何らかの痙性緊張亢進を経験しているのですが、経験則では、完全損傷よりも、頚椎損傷や不完全損傷の被害者に、痙性緊張亢進が認められており、肘を曲げる屈筋や脚を伸ばす伸筋は、痙攣を発症しやすい筋肉です。

2)痙性の長所
感覚が失われた部位に起こっている損傷や障害、皮膚刺激や内臓刺激を察知でき、痙性によって筋肉のサイズと骨強度が維持され、血液循環が促進されます。

3)予防
①痙性を緩和するため、毎日、ソフトな関節可動域訓練を行う、
②シャワーや入浴で体を温める、
③適度な運動や趣味などで気分転換をはかり、ストレスを溜めないようにする、

投薬治療

薬剤名 用量mg 作用 副作用
バクロフェン 5~30 筋肉をほぐし、痛みを和らげる、
筋肉の強ばりを改善、血流改善
眠気、吐き気、食欲不振、脱力感、ふらつき
ダントリウムcp 25~150 麻痺や筋肉の強ばりを改善 眠気、集中力低下、めまい、肝機能障害
ミオナール 50~150 筋肉を緊張させている神経を鎮める、
血流改善
眠気、脱力感、ふらつき、食欲不振、
テルネリン 1~9 筋肉を緊張させている神経を鎮める、
血流改善
眠気、脱力感、ふらつき
セルシン 2~15 精神安定、筋緊張緩和、抗痙攣作用 長期服用で依存症、眠気、注意力・集中力の低下

重症の痙性では、脊髄機能不全部位に直接薬物を注入する容器を手術で体内に埋め込むバクロフェン・ポンプが使用されており、これにより、薬物濃度を高め、経口服用の副作用を押さえ込むことができます。

NPOジコイチのコメント

痙性(痙縮)の症状が、介護を困難にさせていることに着目し、主治医の意見書と母親の陳述書でそれを立証し、母親の1日5時間の内職も継続させることで、職業介護人の導入を認めさせています。
通常の発想ではおよばないことで、本件弁護士の着眼点、創造力には頭が下がります。

もう1つ、後遺障害の審査では、痙性の有無が等級に反映されることはありません。
ところが、重度の痙性を伴っているときは、介護の質は変わってきます。
つまり、痙性は、将来介護料の請求で、弁護士が着目して実力を発揮する領域なのです。

①痙性が特定の身体動作を妨げているか?
②電動車椅子や車の運転中に制御不能になるなどの、安全上のリスクがあるか?
③痙性防止薬が痙性症状よりも深刻な副作用を有し、集中力や活力に悪影響を及ぼしていないか?
④介護人の手に負えなくなるほど痙性が悪化していないか?

脊髄損傷であれば、上記を詳細にチェックしなければなりません。