7歳、小学校2年生の男児が、道路を横断中に左方からの被告乗用車に跳ね飛ばされたもので、男児には、遷延性意識障害で1級1号が認定されています。

損保の反論

①男児が飛び出したことが事故の原因として免責を主張?
仮に免責でなくとも、90%以上の過失相殺が認められるべき?
②遷延性意識障害者の自宅介護は無理であり、住宅改造費は必要なし?
③男児の余命は40歳までと仮定して損害額を算出、賠償金の支払いは定期金払い?

弁護士の立証

①過失割合について、刑事記録を検証し、緻密な現場検証を再現しました。
その上で、当時一緒にいた9歳の姉の供述を証拠提出し、男児は飛び出していないと反論しました。

⇒裁判所は、損保側の主張を退け、男児の過失を30%と認定したのです。

②在宅介護については、主治医の意見書で、自宅介護が可能なことを立証、また自宅介護におけるメリットをしっかりと立証して主張しています。

③余命を短く見積もるという非人道的な主張に対しては、主治医の意見書で、丁寧なケアを続ければ、遷延性意識障害者であっても、長く生きられるということを立証しています。

定期金賠償は、被害者の早期の死亡を前提としており、被害者感情からすれば、到底、受け入れ難いと反論しました。

⇒遷延性意識障害事案の多くがそうであるように、本件も余命を短く見積もるという非人道的な主張が展開されたのですが、裁判所は、主治医の意見を尊重し、損保の反論を却下しました。

結論

損保側の主張は、ことごとく却下され、30%の過失相殺後であっても、総額1億7600万円の損害賠償額を実現することができました。
損保側は、高裁、最高裁と上訴したのですが、全て棄却され、第1審判決が確定しました。

※自宅介護における3つのメリット

ⅰ)ノーマライゼーションの考え方で、事故前と同じように家族と共に暮らすことが、被害者にとって最も自然な姿であり、憲法上の住居の自由も守られること、
また、遷延性意識障害者であっても意識は遠く深いところにあると考えられており、自宅に帰ることでさまざまな刺激が与えられ、症状が改善されることが予想されること、
ⅱ)自宅は施設よりも衛生的で、感染症のリスクが少ないこと、
ⅲ)マンツーマンの丁寧なケアにより、褥瘡=床ずれなど、余病の発生が防止できること、

※ノーマライゼーション

ノーマライゼーションは、どの人にとっても「当たり前のことを当たり前に」を実現するために、社会の環境側を整備していこうという考えです。
障害者や高齢者が、他の人々と等しく生きる社会・福祉環境の整備、実現を目指す考え方であり、障害の有無にかかわらず平等に人権が保障され、自己のライフスタイルが主体的に選択でき、能力・経済効率主義にくみしない共生社会の模索です。

NPOジコイチのコメント

現在の医学では、自宅介護で万全のケアを続ければ、遷延性の被害者であっても余命を全うすることは十分に可能と判断されています。
定期金賠償は、被害者感情からすれば受け入れ難く、一括払いの判例が一般的になっています。
したがって、損保側の反論に屈することなく、判例に基づいた主張を行うことが大切です。

※最高裁 S62-2-6判決
請求者が、一時金賠償方式による賠償を求めているときに、裁判所が定期金賠償方式による賠償を命ずることができるかに関して判断したもので、「損害賠償請求権者が訴訟上一時金による賠償の支払を求める旨の申立をしている場合に、定期金による支払を命ずる判決をすることはできない。」
一時金賠償を求めているときは、定期金賠償を命ずる判決をすることはできないと判示しています。
この最高裁判例は、現在に至るまで明確には変更されていません。