特異な事故発生状況ですが、加害者運転の自動車が狭路に入り込み、戻れない状態となったので、加害者に同乗していた21歳女性の被害者に指示して、運転席の外側から運転席に上半身を乗り入れる無理な姿勢でサイドブレーキを解除させたところ、下り坂で自動車が発進し、被害女性が家屋と車両ドアに挟まれ、外傷性窒息、中心性肝損傷、外傷性心肺停止状態に陥ったもので、蘇生したものの、この間の低酸素脳症により、遷延性意識障害1級1号の後遺障害を残しました。

損保の反論

①本件事故は、被害者の100%過失で発生したものであるとして、無責を主張?
②遷延性意識障害者の余命年数を平均余命まで認めず、定期金で賠償すべき?
③逸失利益については、20%の生活費控除を行うべき?

この損保側主張には、伏線として加害者の無過失主張があります。
被害女性に、無理な姿勢でサイドブレーキを解除するように指示しておきながら、加害者は、自らの過失を全面的に否定したのです。
損保側は、この加害者の屁理屈を利用し、それに乗っかる形で、「加害者が過失はなく、自動車保険を適用しないと言っている以上、弊社としては、手も足も出せないのです?」 こう言って、逃げたのです。

当初、相談を受けた弁護士に、対人保険における被害者の直接請求権の行使についての知識があれば、加害者を飛び越えて相手側の損保に請求することができたのですが、その後の裁判でも、被害者過失を50%と主張するなど、交通事故に対する知識があまりに希薄で、勝負にならなかったのです。
結果、この弁護士は解任され、新しい弁護士が訴訟を引き継いでいます。

上記の経緯があり、被害女性は遷延性意識障害で重篤であるにもかかわらず、治療費すら負担されることはなく、被害者の家族が全てを負担しました。
この、あまりにも非常識な対応は、裁判では通りません。
厳しく、糾弾されることになりました。

弁護士の立証

①自賠責保険に被害者請求を行って、被害者側の急場をしのぎ、裁判を引き継ぎました。
裁判では、本件事故の刑事記録の分析結果と加害者の証人尋問から、坂道にもかかわらず、被害女性に無理な姿勢でのブレーキ解除を指示した加害者の責任を問い詰めました。

その結果、裁判所は、加害者に70%の過失が認められると判示、自賠責保険が支払われ、無責の主張が崩れた後もなお、被害者の余命年数を短縮するよう主張し続けた損保に対し、人権無視に匹敵するものと厳しく糾弾しています。

30:70の過失割合が認められた時点で、被害女性の父親が加入する自動車保険、人身傷害保険に先行請求し、過失による目減り分を人身傷害保険で補填しておきました。

②被害女性の状態については、介護する家族の陳述書と、母親の証人尋問、また、自宅で手厚く介護することで、余命をまっとうできることは、主治医の意見書で立証しています。

⇒その結果、裁判所は、被害者が自宅介護により、事故から4年以上を経過して安定した状態にあること、現在の自宅介護の管理を前提とすれば、余命を全うする可能性も十分にあると供述している主治医の意見書があること、死因の過半数を占める呼吸器疾患=肺炎を防止することで、生命の予後を改善できる見通しがあることなどを認め、同年齢女性の平均賃金を基礎とした逸失利益が、平均余命まで認定されました。

余命年数をカットして定期金で賠償すべきことや逸失利益では、20%の生活費控除を行うべきの損保の主張は一切が排除されました。

被害女性は、症状固定後に、500万円の費用で、脊髄後索電気刺激療法=DCS装置植込術を受けていたのですが、この費用負担についても、医師の医学的判断により処置されていること、四肢の痙縮に一定の効果が得られていることから、裁判所は認定しました。

結果

将来の介護費用は、母親が67歳までの17年間は、
(日中の職業介護1万5000円+夜間の家族介護3000円)×240日+(家族介護8000円)×125日
母親が67歳以上となる48年間については、
(日中の職業介護1万5000円+夜間の職業介護4000円)×365日
合計1億1400万円が認定されました。
過失相殺分の7300万円は、人身傷害保険から填補され、総額2億4100万円が支払われました。

NPOジコイチのコメント

対人保険における被害者の直接請求権の行使について

S49-3に示談代行保険は発売されました。
これにより、交通事故の解決の前面に損保が登場する時代となったのですが、加害者は、示談代行保険に加入している限り、示談交渉の煩わしさからは、解放されます。

対人・対物事故で、加害者に法律上の損害賠償責任が認められるときは、その全額を加入の損保が肩代わりするのですから、被害者は保険屋さんと協議せざるを得ない状況となったのです。
つまり、損保の頭越しに加害者と協議することは許されなくなったのです。

そこで、当時の大蔵省は、損保に当事者性を持たせ、他人性を薄めることで、弁護士法72条違反を回避し、被害者救済をより充実させる必要から、被害者にも直接請求権を認めさせたのです。
現在では、被害者は加害者の自賠責保険と任意保険の両方で直接請求権が認められています。

①対人事故で、加害者に法律上の損害賠償責任が認められること、

②保険会社が、加害者に対して支払い責任を負うこと、

つまり、加害者に過失が認められ、この加害者が任意保険に加入していれば、被害者は、加害者の同意なく、保険屋さんに対して直接に損害賠償を請求できるのです。

被害者からの直接請求を受けた損保は、
①損害賠償責任額が確定し、
②損害賠償請求権不行使の書面による承諾がなされた時、
損害賠償額を支払わなければなりません。

損害賠償請求権不行使の書面による承諾とは、免責証書のことで、当事者間で合意が成立していない状況で示談書に代わるものです。

これらは、約款の賠償責任条項で説明がなされていますが、ほとんどの査定担当者は知りません。
全員が、「保険契約者の同意なしに、保険金の支払いはできない?」
今に至っても、こんなトラウマに振り回されているのです。

世の中はとっくにスピード時代、不幸にして起こった交通事故も、早期社会復帰をしてスピード解決をしなければなりません。 いつまでも、こんなことに関わってはいられないのです。

加害者が0:100主張している?
加害者が、自動車保険を適用しないと言っている?
加害者の了解が得られない?
事故後、加害者が行方不明で連絡が取れない?

これらの説明や弁解は、すべて、相手側損保の怠慢となります。
被害者は、損保の屁理屈に耳を貸さずに、直接請求権を行使して、早期解決に邁進するのです。
相手の任意保険に対しても、直接請求ができることを、シッカリ憶えておいてください。

※脊髄後索電気刺激療法=DCS装置植込術

1985年、神野 哲夫 名誉教授のグループにより開発されたもので、元々は、脳卒中後の痙性麻痺に対して痙性を緩和させる目的で始まったのですが、泣くことや笑うなど表情が豊かになったこと、過緊張や異常発汗が和らいだこと、生理が来るようになったことなど、目に見える変化があり、またDCSのスイッチが入ると刺激で目が覚めるので、昼間しっかり起きて夜ぐっすり眠るという1日のリズムが改善されるなどの事例がしばしばあり、慢性期の遷延性意識障害の患者に応用されることになりました。

心臓のペースメーカによく似た刺激装置を皮下に埋め込み、上位頚椎C2の硬膜外に電極を置いて弱い電流を流し、頚椎の後索を電気刺激する方法です。
1985年より今日まで200例の遷延性意識障害者を対象にして、この治療が実施され、結果、著効は37例で、全体の18.5%、有効は71例で35.5%、無効は92例で46%、54%の著効・有効例では、特徴として、外傷由来の遷延性意識障害者で、年令が若く、脳の局所血流が、脳100gm当り1分間に20?以上であることが報告されています。

※遷延性意識障害に関する特別外来

名称 医療法人コジマ会 ジャパン藤脳クリニック
所在地 〒458-0816 名古屋市緑区横吹町1918-1
TEL 052-875-2235
窓口 北 和子 看護部長
医師 神野 哲夫 藤田保健衛生大学 名誉教授

適応性の検査や実際の治療は、藤田保健衛生大学病院で行われます。

DCS装置植込術のデメリットは、健康保険適用がなされないことです。
この治療法のデメリットは保険が効かないので自由診療であり、2カ月間の入院で、植え込む機器の費用150万円、術後のリハビリ、薬の費用も含んで500万円と多額の費用がかかることです。
裁判では、医師が治療上の効果を確認しているときは、費用は認定される傾向です。

※DCS装置植込術が認められた判決
大阪地裁判決 H19-2-21  出典 自保ジャーナル・第1695号(H19-7-19掲載)

乗用車を運転の20歳女子大学生が、車線を変更したところ、第1車線から車線変更の酒気帯び運転の乗用車に左後部の衝突を受け、導流帯に駐車していた普通貨物車に激突したもので、被害者は脳挫傷などから遷延性意識障害となり、531日入院し、1級の後遺障害を残しました。

脳や末梢脊髄を刺激し、意識の賦活、除痛、筋緊張の緩和を目的とするDCS装置植え込み術を受けたことが、被害者にとって、必要かつ相当なものであったか、どうかが争点となりました。

被害者は、H14-2-22にDCS療法を開始後、同年3月以降,従命反応が向上し、部分的に経口摂取が可能となり、上肢の動きが向上し、同年4月下旬には、手指を用いて若干の意思表示ができるようになったものであり、同年6/19の退院時までに各方面で症状が改善し、状態・反応スケールおよびGCSスコアがいずれも向上したことが認められる。

DCS療法の作用機序は、必ずしも解明されていないものの、被害者は若年であること、頭部外傷によって植物状態となったこと、植物状態となってから長期間が経過していないことなど、DCS療法実施後に改善が見られた症例に多く見られる条件を満たしており、被害者に現に前記のような改善が見られたことからすると、DCS療法が被害者の症状に対し効果があったと認めるのが相当である。

加害者側は、外傷性の脳機能障害を負った若年の患者については、外傷を受けてから長期間が経過していない場合、DCS療法を行わなかったとしても自然経過あるいは介護を行う近親者に対するプラシーボ効果により、症状に一定の改善が見られる可能性があると主張し、医師による同旨の意見書を提出する。

しかしながら、被害者は本件事故後約7カ月間の治療を経ても、自己開眼はするが、追視、従命反応がない状態であったのに、DCS治療開始後の約2カ月間で簡易な意思表示が可能になったものであり、DCS療法開始前において医師が被害者の症状につき、大きく改善する見込みはないという見通しを有していたことに照らせば、前記の症状の改善が自然経過によるものであるとは考えにくいし、被害者春子や被害者太郎がDCS療法の効果に期待して被害者の介護を従前以上に熱心に行うことがあったとしても、そのことが前記のような改善をもたらすと考えることは困難である。

以上より、実施されたDCS療法は被害者の症状に対し、一定の効果を及ぼしたものと認められ、同病院及びJ病院において行われた治療は被害者の傷害および障害の治療として必要かつ相当なものであったというべきであるから、これらに要した費用についての損害の発生は、本件事故との間に相当因果関係があるというべきである。