Q1.自損事故で遷延性意識障害となったとき、保険金は支払われる?

  1)自損事故保険 2)搭乗者傷害特約 3)人身傷害保険
医療保険金 100万円    
入院一時金   100万円  
後遺障害保険金 2000万円 1000万円  
介護費用保険金 200万円    
重度後遺障害保険金   600万円  
治療費     実費
休業損害     533万4000円
入院雑費     40万1500円
慰謝料     93万1350円
逸失利益     8199万4248円
後遺慰謝料     1800万0000円
将来介護料     3136万1400円
合計 2300万円 1700万円 1億3802万2498円

1)自損事故保険

自損事故であっても、自動車保険に加入していれば、自動担保の自損事故保険で支払われます。
遷延性意識障害で1級1号のときは、医療保険金100万円、後遺障害保険金2000万円、介護費用保険金200万円、合計2300万円が支払われます。

また、自損事故であっても、遷延性意識障害のときは、独立行政法人自動車事故対策機構の運営する療護センターに入院して治療を受けること、介護費用を請求することができます。

2)搭乗者傷害特約 保険金1000万円では、
遷延性意識障害で1級1号、介護が必要なときは、入通院一時金として100万円、後遺障害保険金として1000万円、重度後遺障害保険金として600万円、合計1700万円が支払われます。

損保ジャパン日本興亜では、従来の搭乗者傷害保険の発売を停止しています。
ところが、同グループのそんぽ24、セゾン火災では、搭乗者傷害保険を残しているのです。
ここでは、セゾン火災の搭乗者傷害保険について説明しています。

3)人身傷害保険

人身傷害保険では、実際に発生した損害額をベースに、損保の支払基準で支払います。

37歳男性、遷延性意識障害で自賠法施行令別表第1の1級1号、
入院365日で症状固定、
年収533万4000円、労働能力喪失率100%、就労可能年数30年間、15.372、
介護費用月額15万円、平均余命年数42年間、17.423

損保ジャパン日本興亜の人身傷害保険の約款にしたがって、上記を前提に積算したところ、総損害額は1億3802万2498円となりました。
支払いは、保険金額が上限であり、本件では、保険金が2億円もしくは無制限でなければなりません。

Q2.遷延性意識障害者が、訴訟中に感染症で死亡?

交通事故の示談協議中に遷延性意識障害の被害者が死亡しても、損害賠償請求はできますが、将来介護費用に限っては、請求できません。

類似の質問に、「後遺障害を負った交通事故被害者が死亡したとき、後遺障害による逸失利益は、死亡時までの分に限られるのか?」 などが寄せられていますが、逸失利益とは、被害者が、交通事故による後遺障害がなければ、得られたであろう利益のことです。

※最高裁H8-4-25判決
交通事故で12級の後遺障害が認定された被害者が、海でリハビリを兼ねた貝採り中に、水難事故で死亡した事案で、逸失利益は、原則として、死亡時までの分に限られないと判示しています。
この判決は、貝採事件判決と呼ばれています。
また、最高裁は、H8-5-31判決でも、同様の判示を下しています。

最高裁は、その理由として、「賠償義務を負担する者がその義務の一部を免れ、他方、被害者ないしその遺族が事故により生じた損害の填補を受けることができなくなるというのは衡平の理念に反する。」と述べています。
では、後遺障害を負った被害者が死亡したときの将来の介護費用は?
脳損傷や脊髄損傷による、遷延性意識障害、重度の高次脳機能障害、重度の四肢麻痺など、介護を要する重度の後遺障害事案では、将来の介護費用も、逸失利益と同様、将来にわたる損害です。
交通事故被害者が死亡したとき、それ以降の将来の介護費用が生じる余地はありません

※最高裁H11-12-20判決
将来の介護費用は、死亡時までの分に限られると判示しています。

最高裁は、その理由として、「介護費用の賠償は、被害者において現実に支出すべき費用を補填するものであり、判決において将来の介護費用の支払を命ずるのは、引き続き被害者の介護を必要とする蓋然性が認められるからにほかならない。
ところが、被害者が死亡すれば、それ以降の介護は不要となるのであるから、もはや介護費用の賠償を命ずべき理由はなく、その費用をなお加害者に負担させることは、被害者ないし、その遺族に根拠のない利得を与える結果となり、かえって衡平の理念に反することになる。」
と述べています。

逸失利益とは、被害者が、交通事故による後遺障害がなければ、得られたであろう利益のことで、これは、遺族の扶養利益の実質を備えるものですが、将来の介護費用は、将来にわたる、職業介護人に依頼するときの費用や、交通事故被害者の近親者の介護の負担に対する対価となります。
これは、被害者が現実に支出すべき費用の前払いの実質を備えるものです。

最高裁判決は、逸失利益と将来の介護費用の実質の違いから、被害者が事故後、死亡したことにより、加害者が、遺族の扶養利益の実質を備える逸失利益の支払義務を免れ、遺族が損害の賠償を受けられなくなるのは、衡平の理念に反するものと考え、被害者が事故後死亡したにもかかわらず、遺族が、被害者が現実に支出すべき費用の前払いの実質を備える将来の介護費用の賠償を受けることができるとするのは、かえって衡平の理念に反すると考えているのです。

Q3. 将来介護料には、一時金賠償と定期金賠償の2つがある?

一時金賠償は、法的擬制※がなされて金額が計算されていますが、遷延性意識障害者の将来の介護費用では、将来の不確定要素が大きいことから、損保側よりは、定期金賠償が妥当なのではないかとの提案がなされています。

しかし、定期金賠償では、加害者側の損保が、将来的に、経営破綻したときに、履行がなされなくなる可能性があるということや、早期の死亡を期待しているなど、被害者感情として受け入れ難い問題点などがあり、交通事故の後遺障害事案における裁判実務では、一時金賠償が主流となっています。

※法的擬制
法律用語としては、性質の異なるものを同一のものとみなして同じ効果を与える取扱いを言います。
例えば、相続では、民法886条1項で、胎児をすでに生れたものと見なしています。
擬制は、それが事実に反することを承知の上で、法政策的な考慮からとられる措置であり、推定とは異なり、反証によってその効果が覆されることはありません。
法令上、擬制は、「みなす」 という言葉で表現されています。

Q4.遷延性意識障害者では、個室の使用ができる?

個室を使用しても、損保が差額ベッド料を負担することはありません。
受傷直後は、医師の判断により、ICUや個室での管理となりますが、容体が安定すれば、一般病棟、つまり、大部屋に移ることになります。

遷延性意識障害者の家族は、
①入院中でも、静かな療養環境で、遷延性意識障害となった家族の介護に専念したいこと、
②遷延性意識障害者を他人の目に晒したくないこと、
③大部屋では、肺炎など、感染症の危険が増大すること、

これらの理由から、個室を希望することが多いのですが、損保にとっては、それを認めれば1カ月で30万円以上の差額ベッド料を負担しなければならないことになります。

現在、NASVAの運営する療護センターでは、遷延性意識障害者全員をワンフロア病棟システムで治療を行っており、看護師の目が行き届くことや、人の気配や声などの外的刺激は、患者の意識回復に役立つなどの利点も報告されています。

これらの理由から、損保が個室の費用を認めることはありません。

Q5. 遷延性意識障害者のリハビリ治療?

遷延性意識障害者では、症状固定後も生涯にわたって、リハビリ治療が必要となります。

1)新看護プログラム

現在、遷延性意識障害者が寝たきりで他者に委ねる生活ではなく、関節などが固まり、動きにくくなった身体を改善するように働きかけ、健常時の生活を思い出させるような刺激を行い、生活していると感じ、行動できるようにアプローチする新看護プログラムが推奨されています。

NASVAの運営する療護センターでも、顔面の表情筋のマッサージで、表情が豊かになること、
手足の関節を動かすことで、関節の拘縮を防ぐこと、
入浴時に手足の関節をマッサージすることで、より関節の拘縮を防止できること、
用手微振動(ようしゅびしんどう)で身体全体をさすることで、身体の内側に刺激を与えること、
市販のバランスボールを利用して、身体の側面を伸ばす、捻ることで、呼吸機能を強化させること、
これらは、NASVAのホームページで、http://www.nasva.go.jp/sasaeru/zaitaku.html#movie
ビデオ紹介されており、介護者にとって、大変、参考になるものです。

その他にも、腹部のマッサージで、便通が改善されること、ハンモックの使用で、心地良い揺れと体を包み込む感覚が、刺激とバランスを与えることなどが報告されています。

2)音楽療法、アロマテラピー

NASVAの運営する療護センターでは、クラシックや自然音のヒーリング音楽が使用されていますが、自宅介護では、遷延性意識障害者が好きだった音楽をかける音楽療法こと良いと報告されています。

音楽療法と共に注目されているのがアロマテラピーです。
花の香り、フルーツの香り、森の香りなど植物の香りは、人の心や身体にさまざまに働きかけます。
アロマテラピーは、植物から抽出した香り成分である精油、エッセンシャルオイルを使用して、心身のトラブルを穏やかに回復し、健康や美容に役立てていく自然療法です。
香りを感じる嗅覚は、嗅神経からダイレクトに大脳辺縁系につながっています。
嗅覚は人間の五感の中で最も原始的、本能的なもので、香りはダイレクトに脳に作用しているのです。
①わけもなくイライラする?
②理性ではコントロールできない感情を持て余しているとき、
心地よい香りを嗅ぐことによってリラックスが得られ、イライラが緩和されることがあります。

これは生理的なメカニズムに基づいたアロマテラピー効果と言われています。
嗅覚に刺激を与えるアロマテラピーは、遷延意識障害者のリハビリとして注目されています。

※アロマテラピーの利用法
①芳香浴法 ティッシュやハンカチに1~2滴垂らして枕元に置きます。
②沐浴法 精油を入れた湯に全身または一部を浸ける方法です。
③吸入法 精油成分を鼻や口から吸入することで、呼吸器系の不調を緩和する方法です。
④フェイシャルスチーム 顔に精油成分を含んだ蒸気をあて、血行を促進し、皮膚に潤いを与えます。
⑤湿布法 湯で温めたタオルなどの布を、身体の一部にあてる方法です。
⑥トリートメント法 精油を希釈したトリートメントオイルを身体や顔に塗布する方法です。

Q6.裁判所が自宅介護を認めない?

先に、裁判所が自宅介護を認める4つの要件を説明しました。
①本人ないし家族が希望していること、
②人的支援が確保されていること、
③物的設備が確保されていること、
④医療的環境が整っていること、

この質問は、上記の要件の裏返しとなります。

1)例えば、遷延意識障害者が高齢で、入院中も肺炎を併発するなど容体が不安定な状態が続いているなど、遷延性意識障害者の容体が、自宅介護よりも、医療施設の整備された病院に入院している方が、はるかに安全と判断されたとき、
⇒本来は、感染症対策でも自宅の方が安全とされており、極めて例外的なことです。

2)自宅が、エレベーターのない賃貸アパートの5階で、賃貸で改装が不可であること、
あるいは家屋自体が古く、介護に適した改装をするには莫大な費用を要するなど、自宅介護を行う家に問題があるとき、
⇒裁判の前に、工程表に基づいて自宅を購入、介護環境を整備し、主治医の許可を得て自宅介護を実施していれば、これが問題になることはありません。

3)家族介護人が67歳以上の高齢で、介護の知識や技術が不足しているなど、遷延性意識障害患者の家族に問題があるとき、
⇒治療先や療護センターで介護の研修を受け、職業介護人と家族介護を併用する方法で自宅介護が実施されていれば、高齢が問題とされることはありません。

4)遷延性意識障害者に対する定期的な往診や、緊急時の入院ができる治療先が自宅近くにないなど、医師や病院との連携が取れていないとき、
⇒これまでの経験則で、医療体制が確立できなかったことは、1例もありません。

Q7. 脳死と植物状態の違い?

脳は、大脳、間脳、小脳、脳幹で構成されています。
脳幹は、中脳、橋、延髄の3つに分類することができます。
中脳は、間脳の内側にあって、視覚や聴覚、体の平衡感覚、姿勢反射の運動機能を支配し、橋には、小脳、大脳、脊髄を結ぶ重要な連絡路があり、それぞれに伝達しています。

また、三叉神経、外転神経、顔面神経、聴覚神経などの多くの脳神経核が存在しています。
延髄は、脳幹の最も尾側にあって、嘔吐や嚥下、唾液、呼吸、循環、消化の中枢があり、生きていくのに不可欠な自律神経の中枢です。

脳死判定では、大脳と小脳、脳幹の全てが機能しなくなったときは全脳死、脳幹の機能を失ったときは脳幹死と診断されています。
脳幹死では、当初、大脳は正常に動いていますが、やがて機能を失い全脳死に至ります。
脳幹には、人が考え、生命を維持する重要な役割を果たしており、脳幹が機能しなくなること、つまり脳幹死は、人の死を意味しています。

脳死に対して植物状態とは、脳幹や小脳の機能は残り、大脳の機能を失っている状態です。
大脳の機能の一部や大脳機能の全ての機能を失うと、意識障害を発症します。
しかし、他の機能が正常であり、自分で生命活動を維持することができます。
大脳が障害を受けた後でも、一部の人は、回復して意識を取り戻すことがあります。

Q8. 裁判所が、家族介護で認める介護費用は?

自賠責保険は、家事従事者の休業損害を日額5700円と評価、入通院の実日数で精算しています。
損保も自賠責保険の判断にしたがっています。
ところが、裁判所は、家事従事者の休業損害を賃金センサスの女性年齢別をベースとしており、女性・全年齢平均では、年額372万7100円、日額は1万0221円となります。
専業主婦は、正に、家事従事者に含まれています。

では、遷延性意識障害者の自宅介護では、家族の介護費用は、どうなるのでしょうか?

遷延性意識障害者の自宅介護では、家族の介護費用を認める判決が出ています。
判例では、障害の重さにより、日額8000円を起点に、1万円、1万2000円が認められています。

遷延性意識障害者では、常時介護が必要となりますが、食事やおむつ交換、屎尿処理、体位変換など以外では、通常の家事などをこなすことができるため、休業損害よりも、低く抑えられているようです。

遷延性意識障害では、家族との話し合いで、損保が自宅介護を認めることは、ほとんどありません。
理由は、損保の費用負担が桁違いに大きくなるからです。
自宅介護と施設介護を対比すると、手許に残る賠償金がおおよそ2:1となります。
自宅介護では、将来介護料と住宅改造費、介護雑費などで1億円を超える判例が多数あるのですが、施設介護では、大半が5000万円以下となっています。
家族の介護費用、職業介護人の介護費用は、裁判でなければ実現できません。

Q9. 遷延性意識障害で家族の慰謝料は認められる?

遷延性意識障害では、2004年以降、ほぼ全件で近親者の慰謝料が認められています。
近親者慰謝料の額は、200~800万円の範囲で、施設介護、過失事案に関係なく認定されています。

死亡事故では、民法711条を根拠として、近親者に慰謝料が支払われています。
遷延性意識障害では、民法の709条、710条の解釈により近親者の慰謝料が請求されているのです。
近親者の慰謝料は、弁護士の実力が試される領域の1つです。

※民法709条 「自分の行為が他人に損害をおよぼすことを知っていながら、あえて違法の行為をして、他人の権利や利益を犯し、損害を与えた者は、その損害を賠償しなくてはならない。また不注意による場合も同様である。」

※民法710条 「不法行為により損害賠償をする者は、財産上の損害ばかりでなく、精神上の損害も賠償しなくてはならない。精神上の損害は、身体・自由・名誉などを害した場合ばかりでなく、財産を侵害した場合にも生じる。」

※民法第711条 「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。」

Q10. 解決後に、奇跡的に意識を回復した?

奇跡的な回復は、家族にとっては、大変喜ばしいことですが、以下の不安や疑問も生じてきます。

1)損保とは示談解決しているが、保険金の返還を求められないか?
損保は、症状固定段階で遷延性意識障害を認定し、損害賠償に応じたのですから、将来に奇跡的に回復したとしても、損保が、そのことに異議を唱えることはできません。
もちろん、返金の必要は、どこにもありません。

逆に、遷延性意識障害の症状が重症化し、治療費などが、示談時の積算額を上回ったとしても、1級1号より上位の等級はなく、損保が追加して支払うことはありません。
つまり、示談の締結では、損保と被害者が同等のリスクを共有しているのです。

2)後遺障害等級1級1号が取り消されるのではないか?
遷延性意識障害では、
①自力移動が不可能であること、
②自力摂食が不可能であること、
③屎尿失禁状態にあること、
④眼球はかろうじて物を追うこともあるが、認識はできないこと、
⑤声を出しても、意味のある発言はまったく不可能であること、
⑥まぶたを閉じてなどの簡単な命令にはすることもあるが、ほとんど意思疎通は不可能であること、
これらの状態が、3カ月以上継続しているときに確定診断されています。

意識の回復で④⑤⑥が改善、意思疎通ができても、身体機能である①②③の改善がないときは、常時介護の状態にあることは変わりません。
傷病名は、遷延性意識障害から、脳損傷による体幹麻痺に変わりますが、後遺障害1級1号、身体障害者1級の基準は満たしています。