交通事故無料相談会では、損保の積算明細書を持参され、これらの妥当性を質問される被害者が多いのですが、積算明細書を拝見すると、損保の意図するところがハッキリと見て取れます。
死亡事故における損保の代表的な手口について解説しておきます。

1)高齢者の死亡慰謝料などは、ほぼ、全件、自賠責保険基準で提示されている?

自賠責保険の死亡慰謝料
本人の慰謝料 350万円
遺族の慰謝料 請求者数 被扶養者 慰謝料額
1人 なし 550万円
あり 750万円
2人 なし 650万円
あり 850万円
3人以上 なし 750万円
あり 950万円

自賠責保険は、死亡による損害に関して、被害者本人の慰謝料として350万円、
遺族の慰謝料として、被扶養者なしで、請求権者が1人では550万円、2人では650万円、3人以上では750万円と定めています。

さて、91歳男性が、自転車を運転し、道路を横断中に、左方から直進の普通自動車に跳ね飛ばされ、骨盤骨多発骨折による出血性ショックで死亡しています。

自転車事故

本件は、被害者の相続人が2人であり、損保は、自賠責保険の支払基準により、被害者本人の慰謝料として350万円、遺族の慰謝料として650万円の合計1000万円を提示していました。

被害者の長男が、損保の提示額について疑念を持ち、交通事故無料相談会に参加されました。

裁判所基準(赤本)による死亡慰謝料
①一家の支柱 2800万円
②母親・配偶者 2500万円
③独身の男女・子ども・幼児 2000~2500万円

弁護士は、受任後、訴訟を提起、裁判基準による解決を目指しました。
本人の死亡慰謝料として2200万円、近親者の慰謝料として相続人1名につき100万円、合計2400万円を請求、裁判所は、これを認定しています。
被害者の過失は20%であったが、損害賠償額は、2850万円が実現できました。

上表は、赤本基準ですが、本基準は具体的な斟酌事由により、増減されるべきで、一応の目安を示したものであると解説されている一方で、(注2)では、本基準は死亡慰謝料の総額であり、民法711条所定の者とそれに準ずる者の分も含まれているとも記載されています。
本訴訟においては、損保は、(注2)の記載を自社に有利に引用する形で、1000万円を引っ込め、本人慰謝料+近親者慰謝料として2000万円を認定すると主張しています。

しかし、いつの場合でも、(注2)を前提とするならば、相続人の有無や人数に応じて、被害者本人の慰謝料の金額が大きく異なることが予想されるのです。
したがって、弁護士は、死亡事故では、常に、被害者本人の慰謝料と近親者の慰謝料を分別して請求しなければなりません。

損保は、賠償問題に明るくない遺族に対しては、自賠責保険基準により慰謝料を算出して損害賠償額を提示することがほとんどです。
損保の提示額で示談とすることは、まったく適切ではありません。

2)高齢者で主婦の逸失利益における基礎収入は、年齢別平均賃金でごまかされる?

79歳、女性専業主婦が、生活道路を横断中、普通自動車に跳ね飛ばされ、脳挫傷、外傷性血胸などで死亡しています。

高齢者の歩行事故

被害者の逸失利益につき、基礎収入を年齢別平均賃金の280万円で積算しています。

死亡による逸失利益は、
基礎収入額×(1-生活比率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
の計算式で算出されており、家事従事者の基礎収入は、原則として、女性労働者の全年齢平均賃金が採用されていますが、被害者が65歳以上の高齢者では、全年齢平均賃金を割合的に認定することや年齢別平均賃金が採用されることもあるのです。

本件を担当した弁護士は、被害者の年齢に拘るのではなく、事故当時の家事労働の実態に着目し、
①被害者は79歳ではあったが、1人で、炊事、洗濯および買い物などの家事に従事していたこと、
②その上、認知症患者の夫の介護をしながら、夫が経営する店を本人が1人で切り盛りしていたこと、
③さらに、同居の家族2人のためにも、食事を用意するなどして、家事に従事していたこと、

上記の具体的な事実を遺族の陳述書で立証し、この女性被害者に限っては、生涯を通じて、賃金センサス女性学歴計全年齢平均賃金に相当する労働を行い得る蓋然性があり、逸失利益の基礎収入は、年齢別平均賃金ではなく、賃金センサス女性学歴計全年齢平均を採用すべきと主張しています。

⇒裁判所は、賃金センサス女性学歴計全年齢平均の年額354万7200円を認めました。

結果、2140万円の損保提示額は、4530万円となり、増加額は、+2390万円となりました。

3)加害者が不起訴処分、100:0で無責と主張されたときは?

直進中の加害車両が、道路に倒れ込んだ82歳女性の頭部を轢過し、女性被害者は死亡しています。

倒れ込んだ女性の交通死亡事故

加害者側の損保は、本件事故は、82歳と高齢である被害者が転倒した際に、たまたま通りかかった加害車両が、避けることができないで被害者を轢過したもので、刑事手続きも不起訴処分であり、無責で損害賠償に応じられないと主張しています。

本件では、刑事手続上、加害者は、過失を立証することが困難であるとして、不起訴処分とされており、検察審査会に不服を申し立てたのですが、不起訴処分が相当であると判断されていました。

弁護士は、事故現場に赴き、事故現場を検証して衝突地点などを特定し、被害者の衣服の損傷状況などから、加害者の不注意により事故が発生したことを確信し、訴訟を提起しました。
裁判では、加害者を証人尋問し、本件の事故発生状況を質すと同時に、加害者には、自賠法3条のただし書きにある免責要件を立証するように求めています。

⇒加害者は、自賠法3条のただし書きを立証することができず、本件交通事故の責任を認めました。
結果、裁判所よりは、2500万円の支払を認める和解案が出され、和解が成立しています。

自動車の運転者が、人身交通事故を起こしたときは、
①刑事上の責任、
②行政上の責任、
③民事上の責任、これらの3つの責任が問われることになります。
このうち、損保が治療費や慰謝料を支払い、示談締結と進むのは、民事上の責任です。
民事上の責任では、民法や自動車損害賠償保障法に基づいて、加害者に対して損害賠償を請求することとなりますが、民法の不法行為責任では、過失責任主義の考え方であり、被害者において、加害者の過失を立証しなければなりません。
ところが、自動車損害賠償保障法は、被害者を保護する観点から、無過失責任主義の考え方であり、自動車損害賠償保障法3条は、加害者において、
①自己および運転者が、自動車の運行に関し、注意を怠らなかったこと、
②死傷者または第三者に、故意または過失があったこと、
③自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと、

という3つの要件を立証しない限り、加害者は、被害者が被った損害を賠償しなければならないと規定しているのです。

したがって、加害者は、刑事上の責任を問われなかったとしても、自動車損害賠償保障法3条が規定する上記3つの要件を立証しない限り、事故の責任を免れることはできないのです。
つまり、刑事では不起訴処分だから、民事でも無責であると主張することは許されていないのです。

4)兼業主婦では、有職者として逸失利益がごまかされる?

84歳、兼業主婦が、青信号で交差点の横断歩道を歩行中、対向方向から右折してきた四輪車に跳ね飛ばされ、頭蓋内損傷などで死亡しています。

84歳兼業主婦の死亡事故

損保は、年間100万円の収入を得ている有職者として逸失利益を積算しています。

有職者としての年収 主婦(女性労働者全年齢平均賃金)
100万円 372万7100円

被害者は、長男と同居し、炊事、掃除、洗濯等の家事に従事しており、弁護士は、当然ながら、主婦としての逸失利益を請求しました。

赤い本では、家事従事者の基礎収入については、賃金センサス女性労働者の全年齢平均賃金額を基礎とし、有職主婦では、実収入が上記平均賃金以上のときは実収入、平均賃金を下回るときは平均賃金により算定するとし、家事労働分の加算は認めないのが一般的であると解説しています。
つまり、有職者もしくは平均賃金のいずれか高い方を基礎収入とすると説明されているのです。

⇒弁護士が登場したのですから、ここは、強交渉しかありません。
最終的に、主婦としての逸失利益、700万円が認められたほか、慰謝料として、本人が2400万円、近親者1名に100万円の2500万円が認められ、損害賠償額3400万円が実現しています。

なお、被害者が高齢者では、全年齢平均賃金ではなく、年齢別平均賃金が用いられることにも用心しなければなりません。

本件のような事例は、死亡事案以外にも、後遺障害における休業損害や逸失利益の積算でしばしば見かけており、油断がなりません。